はじめに
厚生労働省は2016年4月に日本で初めての「AMRアクションプラン」を策定し、その後も国を挙げて抗菌薬適正使用を推進してきました。2023年には新たな「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」が策定され、広域抗菌薬の使用削減数値目標が設定されています。これらの取り組みに呼応する形で、2023年11月に「抗微生物薬適正使用の手引き 第3版」が発表され、医療現場でのAMS強化が一層求められるようになりました。
私が印象深いと感じるのは、「チーム医療の中で薬剤師が積極的に処方提案やモニタリングを担う」という姿勢が、ガイドライン上でより明確になっている点です。多職種が協力しなければ耐性菌の蔓延を防ぎにくいという現場の実情を考えると、薬剤師の専門性がリーダーシップとして発揮されることは、大きな意義があるでしょう。
最新ガイドラインに見る「薬剤師の役割」とは
1. チーム医療における薬剤師の立ち位置
抗菌薬適正使用の推進を担う多職種チームは、AST(Antimicrobial Stewardship Team)と呼ばれます。その構成員には感染症専門医や看護師、臨床検査技師なども含まれますが、ガイドラインでは「薬剤師が処方前・処方後の評価、適切な投与量・期間の提案に積極的に関与する」ことを強く推奨しています。
例えば重症肺炎や敗血症に使用される抗菌薬が本当に最適かどうかをチェックし、腎機能やバイタル情報を踏まえつつ、より適切と思われる薬剤や投与計画を医師に提案するのが薬剤師の役割です。実際、薬剤師がこまめにモニタリングすることで、耐性菌の発生率や重篤化を抑える事例が報告されています。
2. 処方提案・モニタリングの具体例
たとえばカルバペネム系抗生剤を使用する際、事前に「投与期間の上限」を設定したり、「腎機能が一定基準を下回る患者には投与量を減らす」といったプロトコルを策定する病院があります。薬剤師がモニタリングを続け、基準を逸脱しそうなケースに対してアラートを出す仕組みにより、カルバペネム系抗生剤の使用量を減らすことを目指しています。
こうしたアクションは、薬剤師ならではの専門性が発揮される場面です。投与中の血中濃度や患者の臨床経過を継続的にフォローし、不必要な抗菌薬の長期投与を防ぐことで患者さんの負担軽減や院内感染対策にもつながるでしょう。
新ガイドライン対応の院内体制づくり
1. 教育プログラムと研修の重要性
抗菌薬の適正使用を定着させるには、医師・看護師・臨床検査技師・管理栄養士など、すべての職種が耐性菌の脅威やAMSの概念を正しく理解する必要があります。そのために、多くの病院では薬剤師が主導して定期的な勉強会や研修を開催しているようです。
新しいガイドラインのポイントを噛み砕いて解説し、具体的な事例やケーススタディを共有すれば、各スタッフが自分の担当業務とAMSを関連づけて考えやすくなります。特に繁忙な臨床現場では、シミュレーション形式の研修が有効で、投与計画から投与後の評価までをチームで体験することで理解度が高まると感じます。
2. 多職種連携を促す制度・仕組みづくり
手引きで示される方針を運用に落とし込むには、院内プロトコルやルールづくりが欠かせません。たとえばハイリスク薬の処方に際しては薬剤師を含むチームカンファレンスを必須化し、処方計画を診療録に明記するよう定める病院もあります。
このような制度を整えることで、医師が薬剤師からのフィードバックを前提に処方設計を組み立てられるようになる利点があります。また、投薬ルートの見直しや、外来患者に対する服薬期間の短縮提案なども薬剤師がリードしやすくなるでしょう。
3. グループウェアを活用した病棟への情報共有
多職種連携を加速するには、院内のチームメンバーがリアルタイムで情報を得られる環境が大切です。近年、グループウェアを導入している病院では、感染症担当薬剤師がAST会議で決まった方針をすぐに共有し、医師や看護師、臨床検査技師が各自のPCやタブレットで確認できる仕組みが整いつつあります。
チャット機能や掲示板機能があるグループウェアなら、緊急の注意喚起や処方変更の相談をオンライン上でスピーディーに行えます。ベッドサイドにいる医師や看護師と薬剤師がリアルタイムで連絡を取り合えるため、手戻りも大幅に減らせるはずです。

成功事例から学ぶ、チームで取り組むAMS
1. 薬剤師主導のプロトコル整備による効果
ある病院では、AST主導でカルバペネム系薬の処方に対して連日の処方後 のモニタリングとフィードバック(post-prescription review and feedback;PPRF)を開始しました。1年後には狭域スペクトルの β ―ラクタム系薬への変更割合が、AST 介入後に有意に増加した(7.0% vs. 13.0%;P<0.001)という報告がなされています(※日本化学療法学会)。
こうした成功要因として挙げられるのは、薬剤師が多職種に根拠を示しながら連携し、ローカルプロトコルを現場に合わせた形でカスタマイズした点です。医師が処方しやすい手順を整え、看護師も投薬管理がしやすい環境を作れば、スタッフ全体の合意形成がスムーズに進みます。
2. ICT(Infection Control Team:感染対策チーム)とリアルタイムデータ共有
ICT(感染対策チーム)は、院内の感染制御を専門的に担う多職種チームのことを指します。電子カルテやICT専用システムが普及しつつある昨今、感染症の発生動向や検査データを一元管理し、必要に応じてASTへアラートを出す運用が行われる病院もあります(※ 日本環境感染学会誌)。そこに薬剤師が加わることで、処方データと感染症データを組み合わせた評価が可能となり、例えば「特定の病棟で耐性菌が増えている」「高リスク抗菌薬の使用量が急増している」といった兆候を早期に掴めるようになるのです。
持続的なAMS推進のために
1. スタッフのモチベーション維持策
抗菌薬適正使用の取り組みは、日々の地道なモニタリングと改善の積み重ねが不可欠です。そのため、スタッフが疲弊しないようモチベーションを保つ工夫が重要になります。たとえば月ごとに抗菌薬使用量のグラフを院内で共有し、取り組みの成果が数字として可視化されるようにするとよいでしょう。
加えて、ガイドラインの更新や学会の最新情報を学ぶ場を定期的に設けることで、スタッフが「自分たちの仕事は患者さんを守るうえで大切だ」と再認識できます。表彰制度や院内報への掲載など、成功事例を周知する仕組みを作るとさらに盛り上がります。
2. 業務効率化とAI・DX活用の可能性
近年、一部の大学病院や高度医療機関では、AI解析による予測モデルを活用して抗菌薬と投与スケジュールを提案するシステムの研究・試験運用が始まっています(※ Kobe U)。まだ大規模普及には至っていませんが、将来的には電子カルテやグループウェアと連動して、処方時に自動でアラートを出すなど、現場を支援する技術として発展するかもしれません。
こうした技術が実装されれば、薬剤師の業務効率化だけでなく、より精度の高い処方提案につながる可能性があります。ただし、最終的な判断はやはり医療従事者による多角的な評価が必要であり、AIを「活用しつつも鵜呑みにしない」運用が望まれるでしょう。
まとめと今後の展望
多職種が一丸となってAMSを推進するためには、薬剤師の専門性が欠かせません。処方設計やモニタリング、プロトコル整備など、薬剤師がリーダーシップを発揮することで、耐性菌発生のリスクを削減するとともに患者さんのアウトカムを向上させることが期待されます。
また、グループウェアをはじめとするITツールの導入や、AI・DX技術の試験運用など、新たなテクノロジーの活用も進んでいます。こうした取り組みを組み合わせることで、さらに効率的かつ精度の高い感染対策が可能になるでしょう。院内コミュニケーションを円滑化し、チーム医療の質を高めたいとお考えの方は、Dr.JOYのサービスページもチェックしてみてください。
耐性菌の問題は一朝一夕に解決できるものではありませんが、だからこそ継続的な取り組みと知見のアップデートが重要です。今後もガイドラインの改訂や新技術の登場を注視しながら、医療現場全体でAMSを推進していきたいですね。

Dr.JOY株式会社DS事業部 カスタマーサクセス
長友
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