はじめに
2025年現在、医薬品の約2割が出荷調整(通常出荷以外)の対象となっており、供給不安が続いています(日薬連「医薬品供給状況にかかる調査結果」)。病院薬剤師の皆様も在庫管理や処方提案の面で頭を悩ませるシーンが増えているのではないでしょうか。既存の納入ルートで突然「在庫なし」「納期未定」と告げられると、医療チーム全体に影響が及び、適切な薬物治療を維持するために緊急でさまざまな調整が求められます。
本記事では、頻発している医薬品の出荷調整を取り巻く現状を整理し、病院薬剤師が実際に行っている対策を共有いたします。院内での情報共有や、地域連携の工夫など、現場で役立つ事例を中心にまとめました。日々の業務や検討事項のヒントとしてご覧いただければ幸いです。
頻発する医薬品の出荷調整 -現状と要因
1. 不足しがちな医薬品
特に不足が深刻化している薬剤として、呼吸器関連薬(咳止め・去痰薬など)や循環器系薬(降圧薬など)、ジェネリック医薬品が挙げられます。
・抗菌薬
特定の感染症が流行する時期や、ガイドライン改定によって特定薬への需要が集中する場合に不足が顕在化しやすいです。特に注射用抗菌薬の出荷制限は、入院診療や手術前後の予防投与にも影響を与えます。
・輸液製剤・注射剤
緊急対応や周術期管理に不可欠な点滴用製剤が不足するケースが増えています。輸液の種類によっては他剤への切り替えが難しく、院内手術のスケジュール調整が必要になる場合もあります。
・ジェネリック医薬品
原薬調達や製造ラインの問題で長期化することがあり、安価であるがゆえ需要が集中しやすい点が課題です。先発医薬品への切り替えを余儀なくされるケースも報告されています。
2. 出荷調整が多発する主な理由
なぜこれほど供給が不安定化しているか、その背景を理解しておくことがリスクマネジメントにつながります。代表的な要因としては、下記が挙げられます。
・原薬の海外依存
原薬の多くが海外調達に依存している現状があり、輸送や通関、為替変動など外的要因で一時的・長期的な供給障害が発生します。
・製造ラインの品質管理強化
GMP(Good Manufacturing Practice)のさらなる厳格化や製造工場の稼働停止が重なると、同一ラインで製造する複数の薬剤に波及してしまいます。近年では一部メーカーで不正製造問題が発覚し、GMP違反による業務停止処分が相次いだ影響も大きく、同一ラインで製造されるジェネリック医薬品の出荷が大幅に制限されるケースがありました(小林化工・日医工など、厚生労働省報道資料 2021~2023年)。
・需要予測の難しさ
インフルエンザやCOVID-19などの感染症動向、ガイドライン改定、学会発表等により需要が急増する場合、メーカーの生産計画が追いつかず慢性的な不足へ陥ることがあります。特に2023年以降、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時流行するシーズンに解熱鎮痛薬や去痰薬の需要が急増し、在庫逼迫が顕在化した事例も報告されています(厚生労働省「鎮咳去痰薬の増産要請に関する通達」2023年秋)。
病院薬剤師による対応策
1. 多方面からの在庫確保と入手ルート拡大
出荷調整が通知されたら、まずは卸業者や製薬企業と密に連絡を取り、必要量の確保を試みることが基本となります。ただし、どの病院も同様の動きをとるため、思うように確保ができない場合も多いでしょう。
・卸業者との連携強化
定期的に在庫状況をヒアリングし、急な欠品の予兆や入荷予定をこまめに情報共有することで、調剤業務や処方設計への影響を見越した対策が取りやすくなります。
・近隣施設・地域薬剤師会の活用
同一地域の病院や診療所との連携で、融通可能な在庫を一時的に借用し合う事例も増えています。すでに地域連携パスや在庫共有システムを導入している地域では、情報の可視化により迅速な対応が可能となります。
2. 代替薬・同一成分異製剤の検討
医師と協議のうえ、処方変更が許容される場合には、同成分の他製薬会社製剤や類似薬理作用の別剤を候補に挙げます。代替薬を決める際は以下の点を検討しています。ただし、後発医薬品同士でも製造会社によって添加物や剤形が異なる場合が多いため、処方変更後の服薬指導で患者さんへしっかり説明することが必要です。 一部では先発品への切り替えを余儀なくされた結果、保険上の後発医薬品調剤体制加算に影響が出るなど実務上の課題も指摘されています。
・治療効果と副作用プロファイル
有効成分が同一でも添加物が異なることで投与経路や副作用リスクが変わる場合があります。また、一般名処方が主流化している一方で、先発医薬品とジェネリックで使い勝手が異なるケースもあるため、現場でのフィードバックを収集しておくと役立ちます。
・患者背景への考慮
既往歴や併用薬との相互作用に注意が必要な患者に対しては、特に慎重な切り替えが求められます。投与スケジュールの変更や服薬指導に追加説明が必要となるケースもあるでしょう。
3. 院内情報共有と多職種連携
薬剤部内だけでなく、医師・看護師・事務部門なども含めた多職種連携が不可欠です。たとえば院内のICT(Infection Control Team)やAST(Antimicrobial Stewardship Team)と連動して、抗菌薬が不足した際の使用優先度を決めるなど、感染症治療ガイドラインの観点を取り入れた使い分けを行う場合もあります。
・連絡体制の整備
出荷調整のアラートが出た際、どの部署にどの情報をどのタイミングで伝えるかをあらかじめ決めておくと、スムーズに対応できます。
・ラウンド・カンファレンスでの共有
病棟ラウンドやカンファレンスに参加し、不足薬への対応方針・代替薬の使い分けを直接医師や看護師へ説明できる体制があると、処方変更が必要な場合も混乱を減らせます。

地域連携の取り組み事例
広域での在庫融通と共同仕入れ
複数の病院や診療所、薬局がネットワークを組み、在庫情報をリアルタイムに共有する取り組みが徐々に広がっています。共同仕入れや情報交換を積極的に行うことで、出荷制限の長期化にも耐えられる体制を確立している地域もあります。
地域で一本化したシステムを使用することで、各施設が不足薬の有無を即座に把握し、患者さんが複数施設を受診した場合でも軌道修正がしやすいメリットがあります。
患者・医療現場への影響とリスクマネジメント
1. 患者説明と服薬指導のポイント
病院薬剤師が外来業務や病棟業務を担当している場合、患者さんへの説明も重要な業務のひとつです。「なぜいつもの薬が使えなくなるのか」「代替薬ではどのような違いがあるのか」を適切に伝えることで、患者さんの不安軽減につなげられます。
・服薬指導の充実
代替薬で用量や用法が変わる場合は、看護師や在宅医療チームとも連携し、副作用発現のタイミングや観察ポイントを確認しておきましょう。
・患者からの質問への対応
「薬の価格差」「効果の違い」など、疑問や懸念にしっかり答えられるように、院内マニュアルやFAQを整備しておくと対応がスムーズです。
・コンプライアンス面の注意喚起
必要以上の備蓄はかえって供給逼迫を招くことや、個人輸入に伴う法的・安全面のリスクを周知するのも大切です。実際にネット上での大量購入や個人輸入を試みる患者さんもおり、医薬品の不適切な使用を防ぐためにも、薬剤師からの正しい情報提供が欠かせません。
2.医師との連携で処方設計を柔軟に
出荷調整への対応で重要なのが、医師との緊密な情報交換です。製造停止や不足リスクが高い薬に関しては早めに医師に伝え、代替プランや新たな処方スキームを協議しておくと、いざというときの混乱を回避できます。
・レジメン管理の見直し
化学療法レジメンや感染症治療レジメンなど、特定薬剤を中心に組まれている治療計画は、供給不足リスクを踏まえて、あらかじめ複数案を用意しておくと良いでしょう。
・院内委員会での合意形成
薬事委員会やアンチバイオグラム委員会などを活用し、代替薬の使用基準や優先度を決めておくと、医師間での見解の相違を減らすことができます。

まとめ
医薬品の出荷調整は、一時的な在庫不足に留まらず、医療機関全体の治療方針や患者満足度にまで影響を及ぼす重大な課題です。2023年から2024年にかけて行政と業界の対策が進み、一部製品では供給不足が徐々に解消し始めるなど改善の兆しも見られます。しかし大多数の医薬品で安定供給が確立するにはまだ時間がかかるとの見解が多く、病院薬剤師が迅速な情報収集と地域連携で不足リスクを低減する取り組みは今後も不可欠でしょう。
また、薬事委員会や学会活動の場を通じて、メーカーや行政と連携しながら長期的なサプライチェーン改善策を模索する動きも活発化しています。出荷調整が生じても、患者さんに安全かつ最適な医療を提供し続けるため、病院薬剤師の役割は今後ますます大きくなっていくといえます。
今後は、医薬品の在庫管理や情報共有をサポートするシステムや、最新の不足情報や代替薬に関する情報をMR/MSへすぐにチャットで確認できるシステムを活用することで、現場が混乱する前に在庫状況や代替手段を整理し、医師や看護師、さらには患者さんへの対応を迅速化できるのではないでしょうか。
自院のDX推進の一環として興味がある方は、まずはメーカーや関連サービスの公式ホームページをチェックし、実際の導入事例や費用対効果を比較検討してみてください。上手なシステム活用により、出荷調整の影響を最小限に抑えながら、医療の質を維持・向上する取り組みがさらに広がることを期待しています。

Dr.JOY株式会社DS事業部 カスタマーサクセス
長友
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