はじめに
近年、日本の医療現場における長時間労働は深刻な問題となっており、その改善は社会全体にとって重要な課題となっています。厚生労働省の調査でも、医師の労働時間は他業種と比較して著しく長い傾向にあることが示されており、医療の質を維持し、患者の安全を確保するためにも、医療従事者の負担軽減と労働環境の改善が不可欠です。
このような状況を受け、政府は「働き方改革」を推進しており、医療分野においても例外ではありません。2024年4月からは、医師の時間外労働に上限が設けられるなど、具体的な対策が講じられています。この改革を支援する重要な施策の一つが、2019年の税制改正で初めて導入され、その後も数回の改訂と延長を経てきた「医師及び医療従事者の働き方改革の推進に係る特別償却制度」です。本稿では、この制度の概要、活用ポイント、そして最新の医療IT技術との関連について解説します。
医師・医療従事者の働き方改革を後押しする特別償却制度の概要

「医師及び医療従事者の働き方改革の推進に係る特別償却制度」は、医療機関が医師やその他の医療従事者の労働時間短縮に資する特定の備品(医療機器を含む)、およびソフトウェア(取得価額が1品目または1セットあたり30万円以上のもの)を取得した場合に、通常の減価償却に加えて、取得価額の15%を初年度に特別償却できる制度です。この制度は、医療機関の税負担を軽減し、働き方改革に繋がる設備投資を促進することを目的としています。
制度対象となる期間は、2019年4月1日から2025年3月31日までとなっていましたが、対象期間が2027年3月31日まで延長されています。この制度を活用するためには、医療機関が各都道府県が設置した医療勤務環境改善支援センターの指導と助言の下で「医師等勤務時間短縮計画」を策定し、都道府県知事の確認を受ける必要があります。
制度の対象となる医療機関と設備:労働時間短縮計画が鍵
特別償却制度の対象となる医療機関は、都道府県知事の確認を受けた正式な「医師等勤務時間短縮計画」を策定した医療機関です。この計画の策定と承認は、制度の適用を受けるための必須条件となります。
対象となる設備は、医療機関が「医師等勤務時間短縮計画」に基づいて使用し、医師およびその他の医療従事者の労働時間短縮に貢献する、取得価額が30万円以上の器具、備品(医療機器を含む)、およびソフトウェアと定義されています。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
勤務時間管理システム:
ICカードリーダーや勤怠管理ソフトウェアなど、労働時間を正確に記録・管理するためのシステム。勤務シフト作成支援ソフトウェア:
効率的なシフト作成を支援し、労働時間の偏りを是正するためのソフトウェア。AI搭載音声認識ソフトウェア:
医師の診断書や報告書作成時間を削減するためのソフトウェア。医療機器:
手術支援ロボット、コンピュータ支援診断システム、画像診断装置、在宅医療用小型診断装置など、医師の業務を補助または代行する機器。医療従事者支援機器: 院内搬送ロボット、患者離床センサーなど、医師以外の医療従事者の負担を軽減する機器。
予備検査用機器: 遠隔バイタルサインモニタリングシステムなど、医師の診断前に必要な情報を収集する機器。
医療情報システム:
電子カルテシステムや医事会計コンピュータシステムなど、診療情報や経営情報を効率的に管理するためのシステム。
重要な点として、対象となる設備は、製造業者または販売業者がパンフレットや仕様書において医師等医療従事者の労働時間削減につながるような性能として、従来の製品より3%以上の効率化を謳っている必要があります。
特別償却のメリットと活用ステップ
特別償却制度を活用することで、医療機関は初年度に取得価額の15%を損金として算入できるため、税負担の軽減につながります。また、最新の設備導入を促進し、業務効率化や医療の質の向上、そして職員のモチベーション向上にも貢献する可能性があります。
制度を活用するための主なステップは以下の通りです。
都道府県医療勤務環境改善支援センターの指導の下で「医師等勤務時間短縮計画」を策定します。
策定した計画を都道府県センターに提出し、確認または承認を受けます。一部の都道府県では、予備申請と正式申請の2段階の手続きがある場合があります。
青色申告時に、確認された計画書の写しを税務署に提出します。
設備の使用開始後、一定期間(例:6ヶ月)後に医師等勤務時間短縮計画の報告書の提出が必要となる場合があります。
申請にあたっては、高額医療機器に適用される12%の特別償却率との併用ができない点などに注意が必要です。ただし、設備の購入に補助金や助成金が使用された場合でも、本制度の適用を受けることができます。
医療IT技術の最新動向と特別償却制度の活用
特別償却制度の対象となる設備の中でも、医療情報システムや遠隔医療システム、AIを活用した診断支援システム、勤怠管理システムなどの医療IT技術は、医師や医療従事者の働き方改革に大きく貢献する可能性を秘めています。
1.医療情報システム(電子カルテ等)
クラウドベースの電子カルテの採用は増加傾向にあり、医療機関間の相互運用性やデータ共有が重視されています。2024年7月時点で、日本の一般病院の17.1%、一般診療所の22.4%がクラウドベースのシステムを利用していると推定されています。導入することで紙ベースの業務を削減し、管理業務を効率化するだけでなく、医療スタッフ間の情報共有を迅速化し、診療の質の向上にも貢献するとされています。
2.遠隔医療システム
遠隔医療およびオンライン診療の分野は急速に進化しており、2024年度の診療報酬改定では、特に医療へのアクセスが限られている地域での利用を促進するためにオンライン診療の評価の見直しや新設などがされました。日本のデジタルヘルス市場は今後数年間で大幅な成長が見込まれており、2024年から2033年の間の年平均成長率(CAGR)は19.1%と予測されています。遠隔医療は、患者の移動負担を軽減するだけでなく、医療従事者の負担軽減や医療提供の効率化にも繋がると期待されています。
3.自動化・省力化機器
検体検査の自動分析装置、薬剤調剤ロボット、患者搬送ロボットなどの自動化・省力化機器は、医療現場でますます高度化し、普及しています。これらの技術は、医療業務の効率、精度、安全性を向上させる可能性がありますが、導入には高額な初期投資が必要となる場合もあります。
4.AIを活用した診断支援システム
AIを活用した画像診断支援システムは、診断の精度と速度の向上、疾患の早期発見に貢献する可能性があります。しかし、現時点での導入率はまだ比較的低い水準にあり、その費用対効果に関する不確実性が導入の障壁の一つとなっています。ある調査によると、医療機関の大部分(79.4%)がAI医療機器を導入しておらず、導入している機関の中でも画像診断支援が約10%と最も高い割合との調査結果もあります。
5.勤怠管理システム
医療機関向けの最新の勤怠管理システムは、労働時間記録、シフト管理、モバイルアプリケーション機能などを備えており、2024年の「医師の働き方改革」における時間外労働の上限規制への準拠を支援する上で重要な役割を果たします。これらのシステムは、労働時間の正確な把握、給与計算の効率化、そして法令遵守に貢献するとされています。
特別償却制度をさらに活かすために:医療DXプラットフォームの可能性

特別償却制度を活用して最新の医療IT技術を導入することは、働き方改革を推進する上で重要な一歩となります。しかし、導入したシステムを最大限に活用し、より効果的な改革を実現するためには、包括的な視点での取り組みが不可欠です。
例えば、株式会社Dr.JOYが提供する医療DXプラットフォームは、ビーコンを活用した医師の勤怠管理をはじめ、AIを活用した電話システム、医療機関の業務効率化、情報共有の促進、そして医療従事者の負担軽減をサポートする様々なソリューションを提供しています。特別償却制度による設備導入を契機として、このような医療DXプラットフォームの導入も検討することで、より一層、働き方改革を加速させることが期待できます。ただし、AI技術の導入にあたっては、その限界やコスト、既存システムとの連携、そしてAIと人間の医療従事者との適切な役割分担についても考慮する必要があります。
まとめ
「医師及び医療従事者の働き方改革の推進に係る特別償却制度」は、医療機関が働き方改革に資する設備投資を行う上で、強力な後押しとなる制度です。最新の医療IT技術と組み合わせることで、業務効率化、負担軽減、そして医療の質の向上に大きく貢献する可能性があります。
制度の活用には、「医師等勤務時間短縮計画」の策定が不可欠であり、申請手続きや対象設備の要件などを事前にしっかりと確認することが重要です。
この制度を賢く活用し、医療DXを推進することで、医師や医療従事者の皆様がより働きやすい環境を実現し、患者にとってより質の高い医療を提供できる、持続可能な医療現場を築いていくことができるでしょう。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
彩名
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