はじめに
医師を取り巻く労働環境が大きな変革期を迎えています。厚生労働省は働き方改革関連法により、医師を含めたすべての労働者を対象に時間外労働の上限規制を打ち出しました。
中でも医師は患者の命を預かる業務特性から、時間管理の在り方が他職種とは異なる面があります。しかし、実際に過酷な環境下で働いている医師の健康を守ること、そして病院運営の安定化を図ることは急務です。そのカギとなるのが「36協定」の再検討と、適切な労働時間把握による時間外労働の管理ではないでしょうか。
医師と「36協定」の関係性
まず、36協定(さぶろくきょうてい)とは、労働基準法第36条に基づいて締結される協定のことを指します。企業や法人が労働者に法定労働時間を超えての時間外労働や休日労働をさせる場合、労使間でこの協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
一般企業の多くでは、36協定を締結することで時間外労働を一定範囲で行えるようにしています。ただし、医師の働き方改革の流れを受け、医師特有の時間外労働上限が新たに設定されるなど、今後は「36協定があれば長時間労働が無制限に認められる」という認識は通用しなくなります。現場はこの変化に柔軟かつ計画的に対応しなければなりません。

2024年4月からの上限規制で何が変わるのか
医師に対する時間外労働の上限規制は、ほかの職種に比べて一定の猶予期間が設けられました。これは業務の特殊性から、すぐにほかの職種と同様の上限規制を適用すると医療提供体制に支障が出る恐れがあったためです。
しかし2024年4月からは、医師に対しても時間外労働の上限が段階的に適用開始されました。
通常の水準は1年間で最大960時間に加え、単月100時間未満や複数月平均80時間以内などの上限制限が設けられています。 地域医療や診療科の特性、医師不足などやむを得ない事情がある場合は「特例水準」が適用されることもありますが、厳しい適用要件があります。
とはいえ、特例を理由に安易に過重労働を漫然と続けるのはリスクが高い行為です。特例水準の適用には管理監督者の判断や、医師本人の同意など、いくつかのハードルが設けられています。
特例水準の注意点
適用要件が厳格化:地域医療確保のために必要かつ、医師本人が合意していること
勤務間インターバルへの配慮が必要:過労や健康リスクを避けるための検討が不可欠
計画的削減:特例を適用しても、将来的には勤務時間を縮減していく具体策が求められる
このように特例水準を用いる場合でも、「一時的な措置」として扱うことが基本スタンスとなっています。

なぜ正確な労働時間把握がこれほど重要なのか
1.医師の健康管理
医師の過重労働は本人の健康を脅かすだけでなく、医療の質や患者安全にも影響を及ぼします。適切な労働時間把握を行わず、長時間労働を常態化させることは、医師のバーンアウトや医療ミスのリスクを高める要因となり得ます。
2.病院経営の安定
勤務実態を知らないまま無理なシフトを組めば、離職率の上昇を招く可能性があります。
また、法的な労働時間の管理が不十分な場合、監督署からの指導や罰則が科されるリスクも否めません。結果として病院の評判を落とし、経営を悪化させる事態に発展する恐れがあるのです。
3.時間外労働上限と給与計算
医師の働き方改革では、時間外労働の上限を超える場合に厳格な規定や手続きが必要になります。
また、給与計算のベースとなる勤務時間の正確な把握は、未払い残業代や不適切な支払いなどのトラブルを防ぐためにも重要です。医師自身が、実際にどれだけ働いているかを把握していないケースは珍しくありません。こうしたブラックボックス化を解消することが、改革の核心ともいえます。

36協定を再検討する際のポイント
医師に対する上限規制が始まる中で、改めて36協定を締結・更新する際には、以下のポイントを押さえておきたいところです。
1.残業上限の具体的数値の確認
2024年4月以降は、特例水準など新たに提示された上限規制を踏まえた協定内容が求められます。特例水準を適用する場合は、追加で必要な書類や本人の合意書など、手続き要件が厳格化されているため、労働基準監督署へ届け出る際にも注意が必要です。 従来のままの数値では実態に合わない場合、修正や追加書類を見直しましょう。
2.医師本人の合意形成
特例水準を適用する際、当該医師がきちんと納得しているかどうかは大切なポイントです。形だけの説明や同意では、万が一トラブルが起きたときに「同意が不十分だった」とみなされる可能性もあります。
3.労働時間把握システムとの連動
新たに締結した36協定は、現場で確実に守られるように仕組み化して運用する必要があります。どうやって医師の労働時間を正しく計測し、管理するのか。これを曖昧にしてしまうと、「実際には協定以上に残業していた」という状況を引き起こす可能性があります。
4.勤務間インターバル制度の検討
法令上の義務化は一部にとどまるとはいえ、医師の長時間労働を改善するためには勤務間インターバルの確保が有力な手段です。36協定と合わせて検討することで、医療スタッフの健康管理をより強固にすることができます。

正確な勤務管理を実現するには?
医療現場は急患対応や手術の長時間化など、予定通りに業務が進まないケースが日常茶飯事です。こうした特殊性を抱えながらも、今後は労働時間を厳しく管理しなければならない。この矛盾を解決するために、効果を発揮するのがIT技術の活用です。
デジタルツール活用のメリット
a.自動集計とリアルタイム反映
手書きのタイムカードやエクセル管理だと、記入漏れや転記ミスなどヒューマンエラーがつきもの。デジタルツールなら、打刻情報やシフト情報がリアルタイムに集計されるため、残業時間の把握が容易です。
b.可視化による早期介入
個々の医師が月ごと、年ごとの残業時間がどれくらいなのかをビジュアル化できれば、「そろそろ上限が近づいているから業務配分を調整しよう」など、早期対応が可能になります。
c.36協定違反を未然に防ぐ
デジタルツール上であらかじめ上限値を設定しておけば、警告アラートなどの機能で医師や管理者に通知できる仕組みも整います。これにより労務トラブルを防ぐだけでなく、医師本人の健康管理にもプラスになります。

勤務管理システムで働き方改革を加速
昨今、多くの医療機関が導入を検討しているのが、勤怠管理システムをはじめとしたITソリューションです。厳格な勤怠管理が求められる今だからこそ、アナログ管理からの脱却は急務となっています。
1.導入ハードルは思ったより低い?
以前はコストや運用面の負担から導入に躊躇する病院も多かった勤怠管理システムですが、近年はクラウド型で比較的導入しやすいプランも増えています。
2.データ活用で病院経営も効率化
システムで集積されたデータを分析することで、診療科ごとの稼働状況や、人員配置の偏りなどが一目瞭然になります。医師の長時間労働を是正しながら、適切な人件費のコントロールも期待できます。
3.もし勤怠管理の導入を考えるなら
医師の働き方改革の大きなテーマとなるのが、「正確な労働時間の把握と管理」です。これを実現するうえで、病院独自の複雑なシフトや急患対応など、多様なケースに対応可能なシステムが求められます。
医療機関向けに特化した機能を持つ勤怠管理ツールとして、以下のページでは医療現場に必要な機能やシステム連携のポイントなどが紹介されています。
職場環境に合うかどうかを検討する際にも役立つ情報が多数掲載されていますので、ぜひ一度ご覧ください。
このようなツールを活用することで、リアルタイムでの労働時間把握や上限超過アラートの設定、勤務履歴の自動集計などが可能になり、労務管理の抜け漏れを大幅に削減できるでしょう。

まとめ
2024年から本格化した医師の労働時間上限規制は、医療機関にとって大きなプレッシャーでもあり、同時に改革のチャンスでもあります。すでに医療現場では「長時間労働は当たり前」という固定観念がありましたが、36協定の再検討を通じて、その在り方を根本的に見直すタイミングが来ました。
過重労働の見直しは、医師の健康維持と患者への医療の質を高めるうえで非常に重要です。一方で、単なる制度の変更だけでは現場は回りません。正確な労働時間の把握と管理、その運用を支えるITツールの導入、そして医師本人やスタッフの理解と協力が不可欠となります。
まずは自院の勤務実態を洗い出し、具体的な数値を把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。そのうえで、医師の健康管理と病院経営を両立するための施策を一歩ずつ進めていくことが、働き方改革を成功させる近道になるでしょう。必要に応じて、医療現場向けに特化した勤怠管理システムなども検討し、改革の一助とすることをおすすめします。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
彩名
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