はじめに
近年、医療業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が急速に広がっています。従来は「製薬企業の営業担当」というイメージが強かったMR(Medical Representative)も、デジタル技術を活用した情報提供にシフトしつつあるのです。特にコロナ禍を経て、2020-2022年にかけて医療機関への訪問制限が続いたことをきっかけに、2024年度MR活動調査(日本製薬工業協会)によると、オンライン面談利用率は対面の32%に留まりつつも、ウェビナー参加率は前年比15%増の68%に達しています。
一方で、調剤や服薬指導など、現場で患者さんと接する機会が多い薬剤師にとっても、MRからの最新情報は重要性を増しています。新薬の適正使用や副作用、処方上の注意点を常にアップデートしていくためには、従来の対面でのコミュニケーションだけでなく、デジタルチャネルを通じた情報交換が欠かせません。本記事では、従来型フィールド活動とデジタルマーケティング、それぞれのメリットと課題を整理しながら、MRの業務がどのように進化しているのかを考察してみたいと思います。
従来型フィールド活動の役割と課題
1. メリット(直接訪問の強み)
従来のMR活動といえば、医療機関や薬局を訪問し、医師や薬剤師と直接対面で情報提供や意見交換を行うスタイルが主流でした。最大の利点は、フェイス・トゥ・フェイスだからこそ得られる「リアルな信頼感」とコミュニケーションの深さです。対面で話すことで、相手の表情や声のトーンから微妙なニュアンスをくみ取れるため、医薬品の特徴や注意点をより的確に伝えることができるでしょう。
また、その場で相手の疑問や要望を即座にキャッチし、柔軟に対応できるのも大きな魅力です。例えば、薬剤師の視点から「実際の服薬指導で患者さんからこういった質問があった」と伝えると、MRが製薬企業の資料をもとに具体的な回答やエビデンスを提示してくれます。こうしたやり取りは、特に新薬やバイオ医薬品などが導入されたばかりの時期には欠かせないものだと感じます。
2. 問題点(スケジュール調整や移動負担など)
その一方で、従来型の訪問活動にはいくつかの課題も存在します。まず大きいのは、スケジュール調整や移動に伴う手間やコストでしょう。病院や調剤薬局は常に忙しく、限られた面談可能時間の中でMRと会うには、事前のアポイントメント取得や担当者との連絡が欠かせません。急な患者対応や業務都合で、予定が流れてしまうケースも珍しくないのです。
さらに、コロナ禍のように感染症が流行すると、訪問自体が制限される可能性があります。医療現場でのクラスター防止や院内感染対策は最優先事項なので、外部からの入室に厳しい条件が課される場合もあるでしょう。そうなると、対面での情報提供が難しくなり、医師や薬剤師に必要な新薬情報が遅れてしまうリスクも否めません。
デジタルマーケティングへの移行
1. メリット(オンライン面談やウェビナーの活用)
こうした背景から、近年ではデジタルマーケティングを活用したオンラインでの情報提供が急速に広まっています。オンライン面談であれば、場所を選ばずに双方が空いている時間にミーティングを設定できますので、スケジュール調整や移動に伴う手間を大幅に削減することができます。ウェビナー形式であれば、一度に多くの薬剤師や医師に対して新薬の解説や製剤特性のレクチャーを行うことができ、非常に効率的でしょう。
また、ウェビナー中にチャット機能を利用して質問を受け付けたり、アンケートを配布して参加者のニーズを把握できるなど、双方向性のコミュニケーションを実現できるのもデジタルの魅力です。さらに、録画データを活用すれば、見逃した医療従事者や後日参加を希望する方にも情報共有が可能となります。
2. 問題点(ツール環境・コミュニケーションの壁)
ただし、オンライン化にも課題は存在します。最も大きいのは、インターネット環境やデバイスの問題でしょう。オンライン会議ツールを使う際に通信環境が不安定だと、途切れ途切れになってしまい、結局何を説明しているのかわからなくなるケースもあります。また、機材の操作に不慣れな場合、接続トラブルによってスムーズな開始ができないこともあるようです。
さらに、対面に比べて相手の表情やしぐさを細かく読み取りにくい点も指摘されています。カメラ越しだと「相手が理解しているかどうか」を把握しづらく、必要に応じた臨機応変な対応が難しいケースもあるでしょう。医療従事者側のITリテラシーにばらつきがあることも、導入・運用を阻む壁の一つだと感じます。
ハイブリッド型営業スタイルが定着する理由
こうした従来型とデジタル双方のメリット・課題を踏まえると、MR活動は「ハイブリッド型」に移行していくのが自然な流れといえます。つまり、対面でのきめ細かいコミュニケーションを大切にしながら、オンラインやウェビナーを有効に使い分けるスタイルです。
実際に、製薬企業の中には、MRが訪問活動を行う前後でオンライン面談をはさんだり、医療従事者向けのフォローアップをデジタルツールで完結させるケースが増えています。働き方改革やDXの推進も背景にあり、MRの移動コストを削減しながら、効率的かつ質の高い情報提供を目指す取り組みが活発化しているようです。
MRの新しい役割と必要なスキル
1. データリテラシーの重要性
ハイブリッド型営業が進むにつれて、MRに求められるスキルも変化しています。従来の対面コミュニケーション力だけでなく、2025年4月に始動した電子カルテ情報共有サービス(厚労省)と連動した分析ツールの活用が追加義務付けられました。今後はリアルワールドデータをAI解析して生成されるRWE(Real-World Evidence)に基づいた情報提供を行う必要が高まるでしょう。
さらに、オンライン会議ツールやウェビナーシステムの操作、SNSを使った情報発信など、ITスキルも欠かせません。2024年4月施行の改正個人情報保護法では医療データのクラウド保存規制が緩和されたものの、MRが扱う臨床試験データには新たに匿名加工処理が義務付けられました。
2. 薬剤師との連携強化に向けたコミュニケーション術
薬剤師は患者さんとの最前線で接し、日常的に服薬指導や副作用モニタリングに携わっています。MRはそうした薬剤師の声をフィードバックし、製薬企業側へ伝えることで、より精度の高い製剤開発や情報提供をサポートできます。オンラインチャットツールや専用アプリを活用すれば、ちょっとした疑問や相談でも気軽にやり取りできるのが利点です。
また、調剤薬局や病棟での意見交換会をウェビナー形式で開催するなど、遠隔地にいるメンバーともスムーズにつながれるのがデジタル時代の強みといえるでしょう。こうした取り組みを継続することで、製薬企業と薬剤師の間に情報の往来が生まれ、最終的に患者さんのメリットにつながると思われます。

薬剤師が知っておくと便利なMR連携ツール
1. 共同で使えるアプリ・クラウドサービスの紹介
MRと薬剤師が情報を共有する際、クラウドサービスや共同編集ツールを利用すると格段に効率が上がります。例えば、研究論文の管理プラットフォームにアクセス権を付与し合えば、最新のエビデンスをお互いに確認する手間が省けるでしょう。安全性情報や副作用報告など、タイムリーな更新が必要なデータほど、クラウドでの一元管理が力を発揮します。
遠隔地のメンバーとも簡単につながれるため、総合病院の薬剤師と在宅診療を担当するMRがリアルタイムで情報交換するケースも出てきました。院内での利用ルールが整備されつつあるところも多く、今後はこうしたプラットフォームがさらに普及すると期待しています。
情報共有ツールを活用する場合は、経済産業省『医療クラウドサービス安全性認証』マークの有無を必ず確認しましょう!
2. 患者さんへの情報提供をスムーズにする工夫
患者さんへの説明においては、紙のパンフレットだけでなく、医療機関認証済みの端末を使用し、患者情報が保存されない一時表示機能を必須とするタブレット端末や動画教材を活用する方法も増えました。患者さんが理解しやすい形で情報を提供すれば、服薬アドヒアランスの向上や副作用トラブルの防止につながりやすくなります。MRが作成・提供する患者指導用のコンテンツを薬剤師が活用すれば、指導時間の短縮にも役立つでしょう。
また、「2024年度MR活動調査では、デジタルフォローアップ利用率が前年比8%減の43%となり、質的深化よりも効率化ツールにシフトする傾向が見られます。「一度薬を処方して終わり」ではなく、継続的なサポートを行う仕組みが形成されつつあります。こうした流れにあわせて、薬剤師もMRのデジタルリソースを上手に使いこなす必要があると感じます。
まとめと今後の展望
従来型フィールド活動には、対面特有の深い信頼関係構築や臨機応変な対応といった大きなメリットが存在しており、日本医師会2024年調査では、72%の医師が、重要な情報伝達には対面を希望しており、すべてをデジタル化で置き換えることは難しいでしょう。しかし、オンライン面談やウェビナーを活用することで、移動コストや対面制限の問題点を解消し、より効率的に最新の医薬品情報を届けられるというメリットもあります。
多くの製薬企業がハイブリッド型の営業スタイルを選択しているのは、こうした双方の強みをうまく組み合わせることで、医療従事者への情報提供を最適化しようとしているからです。薬剤師との連携も同様で、MRはデジタルツールを活用しつつ、必要な場面では対面でのきめ細やかなコミュニケーションを行いながら、医薬品の適正使用に貢献していくことになるでしょう。
今後は、リアルワールドデータの解析や患者報告型アウトカム(PRO)など、デジタルを基盤とした新たな臨床情報の活用が進むとみられています。MRと薬剤師がそれぞれの専門性を掛け合わせながら、医療の質と患者体験をさらに高められるよう連携していくことが望ましいと感じます。
関連ツールのご紹介
医療従事者の名簿管理や情報共有を効率化できるクラウドサービスをご存知でしょうか。拠点が複数に分かれている病院や薬局などでも、担当する医師・薬剤師・MRなどを一元的に管理でき、必要なときにすぐ連絡を取り合える体制を整えられます。オンライン面談への招待や、ウェビナーの参加管理にも活用できるため、対面・デジタルの両方を活かしたハイブリッド型営業をスムーズに実践できます。
参考リンク:
医療機関向け名簿管理ツール
ぜひ、これからのMR活動における連携強化の一助として、ご検討いただければ幸いです。


Dr.JOY株式会社DS事業部 カスタマーサクセス
長友
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