その兼業管理、大丈夫?大学病院が陥る「落とし穴」とDXによる脱却法

2025/5/20

はじめに

大学病院に勤務する医師が、その専門性を活かして外部の医療機関で診療したり、講演や執筆活動を行ったりする「兼業」。これは決して珍しい光景ではありません。実際に、大学病院勤務医の多くが兼業に従事しており、収入確保や地域医療への貢献がその主な理由となっており、スキルアップや多様な経験を積む機会としても、一定の意義を持つ活動と捉えられてきました。しかし、その一方で大学病院の労務管理者にとっては、複雑な管理を要する問題も含まれています。

特に、2024年4月から本格的に適用が開始された「医師の働き方改革」は、兼業管理のあり方に大きな影響を与えています。時間外・休日労働の上限規制が導入され、その遵守が強く求められるようになったためです。重要なのは、この上限時間が本務先だけでなく兼業先の労働時間も「通算」して管理される必要がある点です。

本記事では、大学病院における医師の兼業管理に焦点を当て、労務管理者が直面する具体的な課題を整理します。その上で、リスク回避、働き方改革に対応した適正な勤怠管理、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した効率化という3つの観点から、実践的な解決策を探っていきます。


大学病院医師の兼業で注意すべき主な労務リスク

医師の兼業は、多くのメリットをもたらす一方で、大学病院組織としては潜在的な法的・経営的リスクも伴います。労務管理の観点から、特に留意すべき点を整理します。

第一に、時間外・休日労働の上限規制超過リスクです。医師の働き方改革により、時間外・休日労働時間の上限は、原則として年960時間(A水準)と定められました。ただし、地域医療の確保(B水準・連携B水準)や集中的な技能向上(C水準)を目的として都道府県知事から指定を受けた医療機関等においては、年1860時間の上限が適用されます。この特例水準の指定には、医療機関勤務環境評価センターの評価を経た労働時間短縮計画の策定等が必要です。いずれの水準においても、時間外・休日労働は月100時間未満とする規制がありますが、月100時間以上の労働が見込まれる医師に対し、面接指導等の追加的健康確保措置を実施することを労使で定めた場合は、この月100時間未満の規制は適用されません(年間の上限は遵守)。これらの規制に違反した場合、医療機関には労働基準法に基づき罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。前述の通り、この上限時間は本務先と兼業先の労働時間を通算して計算されるため、大学病院側が兼業の実態を正確に把握・管理できていないと、意図せず上限を超過し、法的責任を問われるリスクがあります。

第二に、安全配慮義務違反と健康障害リスクです。使用者は、労働契約法に基づき、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。兼業によって医師が過重労働となり、心身の健康を損ねた場合、大学病院がこの義務を果たしていなかったと判断されれば、損害賠償請求などに発展する可能性があります。医師が健康に働き続けられる環境の維持は、組織の持続可能性にとって不可欠です。

第三に、情報漏洩や利益相反のリスクです。大学病院は機密性の高い研究情報や患者情報を扱っています。医師が兼業先でこれらの情報を不適切に取り扱ったり、大学病院の利益と相反する行為(競合研究機関への情報提供や不適切な患者紹介など)を行ったりする可能性も考慮しなければなりません。個人情報保護法や医療情報システムの安全管理に関するガイドライン、各学会等が定める利益相反(COI)ポリシーの遵守を徹底する必要があります。

第四に、兼業に関する規程違反や無許可兼業のリスクです。大学病院の兼業に関する内規の整備と周知、そして適切な申請・許可プロセスの運用が、組織のガバナンス維持には不可欠です。


【働き方改革対応】兼業医師の「適正な勤怠管理」実現のポイント

働き方改革への対応、特に兼業医師の労働時間をいかに適正に管理していくかは、極めて重要な課題です。そのポイントを見ていきましょう。

まず、2024年4月施行の「医師の働き方改革」と労働時間通算の原則の正確な理解が必須です。時間外・休日労働の上限規制(原則年960時間、特例年1860時間)は、複数の場所で働く医師の場合、それぞれの労働時間や時間外・休日労働を「合算」して判断されます。大学病院の労務管理者は、自院での勤務時間だけでなく、兼業先での労働時間も把握し、トータルでの労働時間が上限を超えないように管理する責任があります。具体的には、厚生労働省の指針に基づき、医師本人からの自己申告等により兼業先の労働時間を把握し、自院の労働時間と通算して管理する必要があります。自己申告に基づいて管理していれば、仮に申告内容が事実と異なっていても、原則として病院側の管理責任は問われませんが、申告の正確性には限界があるため、客観的な把握に向けた取り組みが求められます。加えて、勤務間インターバルの確保(連続勤務時間制限28時間、休息9時間または18時間)など、医師の健康を守るための追加的健康確保措置についても、通算された労働時間に基づき、各勤務先が連携して実施する必要があります。

次に、大学病院特有の勤務実態を踏まえた労働時間の判断基準の明確化が求められます。診療業務以外にも、研究活動、学会参加、自己研鑽など、医師の活動は多岐にわたります。これらの時間が労働時間に該当するか否かは、個別具体的に「使用者の指揮命令下にあるか」で判断されます。例えば、上司の指示なく自由意思で行う学会準備や手術見学は労働時間とみなされない一方、参加必須の研修や業務に不可欠な予習・復習は労働時間に該当します。重要なのは、形式ではなく実態であり、厚生労働省は各医療機関に対し、医師の意見も踏まえつつ、労働時間と自己研鑽の区別に関する具体的な院内ルールや手続き(例:時間外研鑽の申告制度)を整備し、明確化することを求めています。

さらに、労働基準監督署から「宿日直許可」を得ている場合、その許可された勤務時間(いわゆる寝当直など)は、労働基準法上の労働時間規制(時間外・休日労働の上限を含む)の適用が除外されます。これは、上限時間の管理において非常に重要です。ただし、許可を得るには、「常態としてほとんど労働する必要がない」、「十分な睡眠が確保できる(宿直の場合)」、「通常の業務とは明確に区別されている」、「適切な手当が支払われている」、「原則週1回・月1回までの回数制限」といった厳格な要件を満たす必要があります。許可された時間内でも、通常の診療業務を行えばその時間は労働時間として算定されます。働き方改革への対応として、この宿日直許可の適切な運用が多くの医療機関で焦点となっています。

これらの点を踏まえ、正確な労働時間把握のための具体的な方法としては、自己申告制の精度を高める工夫(例:具体的な記載ルールの設定、定期的な研修)に加え、PCのログオン・ログオフ記録、電子カルテのアクセス記録、入退室管理システムの記録といった客観的なデータを補助的に活用することが有効です。そして、把握した労働時間をもとに、上限超過を防ぐためのモニタリングと早期介入を行うことが、労務管理者の重要な役割となります。


煩雑な兼業管理業務を効率化・適正化するDX活用

複雑化する医師の兼業管理、特に働き方改革に対応した勤怠管理を、従来の紙ベースや手作業による管理で行うのは困難です。DXの活用が、業務の効率化と適正化の両立に貢献します。

ワークフローシステムの導入は、兼業申請・承認プロセスを電子化し、申請・承認の迅速化、ペーパーレス化、進捗状況の可視化を実現します。これにより、申請書類の紛失リスクもなくなり、監査対応も容易になります。兼業申請以外にも各種届出や経費精算など院内の多様な手続きに応用可能であり、実際に兼業承認業務の電子化により業務効率化を果たした教育機関の事例もあります。

勤怠管理システムの導入は、労働時間把握の精度向上に不可欠です。ICカードやPCログ等による客観的な打刻データと自己申告を組み合わせることで、より実態に近い労働時間を把握できます。多くのシステムは、時間外・休日労働の自動集計、上限超過予測時のアラート通知、勤務間インターバルの管理機能を備えており、労務管理者の負担を軽減し法令遵守を支援します。導入事例では、医師の時間管理意識の向上や人事部門の業務効率化といった効果が報告されています。特に、兼業・副業先の労働時間を医師が入力し、システム上で本務先と通算して管理できる機能は、働き方改革への対応において極めて有用です。

さらに、蓄積された勤怠データや兼業申請データを分析することで、リスクの予兆検知や改善策の立案に繋げられます。例えば、部署別・個人別の労働時間データを分析し、長時間労働が常態化している箇所を特定することで、業務分担の見直しやタスク・シフト/シェアの具体的な検討、あるいは人員補充の必要性を示す客観的な根拠となります。

その他、電子カルテのアクセスログ活用、音声入力によるカルテ作成支援、スマートフォン等を用いた情報共有ツール、Web会議システムなども、医師の業務効率化や労働時間短縮に寄与するDXと言えるでしょう。

ただし、DXツールの選定・導入にあたっては、自院の特性や既存システムとの連携、現場の使いやすさ、そして個人情報保護法や関連ガイドラインに準拠したセキュリティ要件を満たすか等を慎重に検討する必要があります。単にツールを導入するだけでなく、業務プロセス自体の見直しや利用者への十分な教育、経営層のリーダーシップが成功の鍵となります。


まとめ

大学病院における医師の兼業管理は、働き方改革への対応という新たな課題も加わり、ますますその重要性を増しています。リスク管理、適正な勤怠管理、そしてDXの活用は、それぞれが独立したものではなく、互いに関連し合う、三位一体で取り組むべきテーマです。

適切な兼業管理体制を構築・運用することは、単に法令遵守やリスク回避のためだけではありません。それは、医師一人ひとりが心身ともに健康で、その能力を最大限に発揮できる労働環境を整備することであり、大学病院全体の医療の質向上、そして組織としての持続的な発展の基盤となるものです。なお、兼業管理においては、収集する労働時間データ等の個人情報の適正な取り扱い(個人情報保護法遵守)、兼業先での活動に伴う情報セキュリティリスクへの対策、そして大学病院の利益との相反(利益相反)を防止するための院内規定や関連ガイドラインの遵守といった、広範なコンプライアンス要件への目配りも不可欠です。

労務管理部門だけでなく、経営層、各診療科の責任者、そして医師自身も、この課題を共有し、協力していく姿勢が求められます。適切なルールと効果的な仕組みのもとで、医師がいきいきと多様な働き方を実現できる。そのような大学病院を目指すことが、これからの時代に求められているのではないでしょうか。


Dr.JOYの勤怠管理のご紹介

医師の働き方改革に対応!
医療業界に特化した勤怠管理システム

この記事をシェアする

ホーム医師の働き方改革

その兼業管理、大丈夫?大学病院が陥る「落...