現場の負担をDXで軽減!「看護必要度」視点で危険行動・離院インシデントを未然に防ぐ方法 

2025/5/19

はじめに

 看護師は、患者の安全を守るという重大な使命を担い、日々、危険行動や離院のリスクに対して細心の注意を払っています。特に高齢化が進み、認知症を抱える患者が増えている昨今、「以前よりも、危険行動や離院のリスクが高い患者を担当する機会が増えた」と感じている方も多いのではないでしょうか。環境の変化や疾患の影響で落ち着きを欠く患者をケアする場面では、一時も気が抜けない、と感じる瞬間も少なくないでしょう。

 頻繁な訪室、詳細な観察と記録、スタッフ間での密な情報共有など、患者のために「やらなければいけない」ことは山ほどあり、その一つひとつが重要であることは言うまでもありません。その負担は決して軽くなく、日々の業務の中で大きなプレッシャーとなっていることも事実です。

 この記事では、現場の切実な悩みに対し「看護必要度」の評価という視点も織り交ぜながら、DX(デジタルトランスフォーメーション、すなわちデジタル技術の活用)がどのように役立ち、私たちの負担を少しでも軽減しより安全なケアを提供できるのか、そのヒントを一緒に探っていきたいと思います。


危険行動や離院への対応、なぜこんなに大変? ~現場の悩みあるある~

患者の安全確保は、医療現場ではとても大切です。しかし、危険行動や離院のリスクへの対応には特有の難しさ、それに伴う大きな負担感が存在します。医療従事者の皆さんも、日々の業務の中で、以下のようなことで頭を悩ませたり、心を痛めたりした経験があるのではないでしょうか。

  • 予測できない動きへの緊張感とプレッシャー
    「さっきまで穏やかに会話していたのに、急に点滴を自己抜去しようとして…」 「訪室したらいつの間にかベッドから離れていて、危うく転倒するところだった…」 など、予期せぬ行動にヒヤッとさせられる場面。いつ、何が起こるか分からないからこそ、常にアンテナを張り巡らせ、精神的な緊張を強いられます。万が一、重大なインシデントが発生してしまった場合のことを考えると、「自分のせいかもしれない…」という重いプレッシャーを感じてしまうことも多いです。

  • 目が離せない患者への見守り負担

    特に注意が必要な患者に対しては、頻繁な訪問やベッドサイドでの長時間の見守りが必要となります。「〇〇さんの様子、ちょっと見てきてくれる?」という依頼が、日中に何度も、そしてスタッフ数が少なくなる夜勤帯ではさらに頻繁に…。そのために費やされる時間と労力は膨大で、他の患者へのケアや、本来行うべき業務にしわ寄せがいってしまう、と感じることもあるのではないでしょうか。 限られた人員の中で、この見守り業務の負担は、身体的にも精神的にも大きなウェイトを占めています。日本看護協会の調査によると、看護師の月平均超過勤務時間は約5.2時間と報告されており、人員不足がその一因と考えられます。

  • 看護必要度評価の迷い

    看護必要度の評価項目に含まれる「危険行動」。2024年度の診療報酬改定により、急性期一般入院料1(7対1病棟)ではB項目が廃止され、A項目(モニタリング・処置など)とC項目(手術などの医学的状況)を中心とした評価となりました。 危険行動の評価においては、「治療・検査中のチューブ類・点滴ルート等の自己抜去、転倒・転落、自傷行為」の発生または「そのまま放置すれば危険行動に至ると判断する行動」が過去1週間以内に確認された場合に「ある」と評価されます。 しかし、日々の状態変化の中で評価に悩むケースや、スタッフ間で判断が微妙に異なるケースも少なくありません。この評価が、ひいては病棟の人員配置や病院全体の収入にも影響する可能性があると思うと、その責任の重さに、余計に慎重にならざるを得ませんよね。「この評価で、本当に患者の状態や必要なケアの度合いを正確に反映できているのだろうか…」という、もどかしさを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。

  • 情報共有の難しさ

    「あの患者、夕方に訪室したら少しソワソワした様子が見られたんだよね」「夜中に何度か起き上がろうとしてセンサーが鳴っていたみたいだよ」…こうした、日々のケアの中で気づいた患者の小さな変化や要注意の行動は、チーム全体で共有し、ケアに活かしたい極めて重要な情報です。しかし、口頭での申し送りだけでは、細かいニュアンスまで伝えきれなかったり、忙しさの中で情報伝達が不足してしまうことも実際に発生します。また、医師への報告やリハビリスタッフ、薬剤師など多職種との連携においても、「あの微妙な変化、どう表現すれば正確に伝わるかな…」と悩むことがあります。結果として、他のスタッフや職種がリスクを十分に認識しないまま対応してしまい、インシデントにつながる可能性も否定できません。

こうした日々の悩みや負担感は、「看護師の仕事だから仕方ない」「経験を積めば慣れる」と、つい諦めてしまいがちです。しかし、本当にそうでしょうか? もしかしたら、テクノロジーの力を上手に借りることで、状況を少しでも改善できる道があるかもしれません。


もう一人で抱え込まない!DXが私たちの業務をこう助けてくれるかも

「DX」と聞くと、「なんだか難しそう…」「自分には関係ないかも…」と感じてしまう方もいるかもしれません。でも、ここでは、私たちの身近な業務をサポートしてくれる「頼りになる便利な道具」として、少し視野を広げて考えてみませんか。危険行動や離院といったリスクの高いケア場面において、DXは具体的にどのような形で私たちを助けてくれる可能性があるのでしょうか。

1. 気づきのアンテナが増える:センサーが見守りをサポート

 まず、近年急速に進化・普及しているのが、各種センサー技術の活用です。最も身近なのは、患者がベッドから起き上がったり、離れようとしたりする動きを検知して知らせてくれる「離床センサー」です。 これ以外にも、ベッドマットの下に敷くタイプ、室内の人の動きを感知する赤外線タイプ、あるいは腕時計のように手首につけて転倒につながるような動きやバイタルサインの異常を検知するウェアラブルタイプなど、様々な種類のセンサーが登場しています。ある病院では、ベッド内蔵センサーによる離床通報システムを導入し、患者の状態を予測してナースセンターに通知する試みもなされています。

これらのセンサーは、特に夜勤中や、他の患者の対応で手が離せない時など、スタッフの「目」だけではどうしてもカバーしきれない状況を補ってくれる、いわば「もう一つの目」のような存在と言えるでしょう。「もしかしたら動いているかも?」という漠然とした不安を常に抱えながら他の作業をするよりも、センサーが異常を検知したら知らせてくれる、という安心感は、私たちの精神的な負担を和らげる一助となるのではないでしょうか。実際に、センサーマットの使用前後で、転倒・転落する患者の割合が減少したという報告もあります。

もちろんセンサーは万能ではありません。カーテンの揺れに反応してしまったり、逆にゆっくりとした小さな動きを捉えきれなかったり、といった誤報・失報の可能性もゼロではありません。 そのため、アラートの感度設定を患者の状態に合わせて調整したり、設置場所を工夫したり、といった運用上の試行錯誤や、センサーの特性を理解した上での活用が重要になってきます。それでも、私たちの「気づきのアンテナ」を増やし、見守りの質を高めてくれる心強いサポート役になる可能性を秘めていると感じます。

また、離院リスクのある患者の安全確保に役立つシステムで一般的なセンサーと少し変わったサービスもあります。例として、Dr.JOYが提供する離院アラートシステムがあげられます。Dr.JOYのウェブサイトによると、このシステムは、徘徊リスクのある患者にリストバンド型のビーコンを装着することで、病棟から離れた際に「だけ」にアラートをスマートフォンやタブレットに通知する機能などを搭載しています。これにより、スタッフは患者の所在を迅速に把握し、早期の対応が可能になります。

2. 「危ない!」をチームで共有:駆けつけや情報連携がスムーズに

センサーが異常を検知したとしても、情報がナースコール表示盤だけで光っているだけでは、近くにいるスタッフしか気づけず、迅速な対応に繋がらない可能性もあります。そこで重要になるのが、検知した情報を「誰に」「どのように」タイムリーに伝えるか、という情報伝達の仕組みです。

最近では、センサーからのアラート通知を、PHSやスマートフォン、専用端末など、スタッフが常に携帯しているデバイスに直接送信するシステムが増えています。 これならば、ナースステーション以外の場所にいても、担当している患者の異常をリアルタイムで把握し、最も近くにいるスタッフがすぐに駆けつける、といった連携が可能になります。

さらに、院内SNSやビジネスチャットのようなコミュニケーションツールを活用すれば、患者の日々の細かな状況変化をもっと手軽に、かつ迅速にチーム内で共有できるようになります。 「〇〇さん、さっき訪問したら少しイライラした様子でした。ご家族との面会が中止になった影響かもしれません。ちょっと注意して声かけをお願いします」といった一言を、関係するスタッフ全員にサッと共有できる。従来の口頭での申し送りや紙ベースの記録だけでは難しかったスピード感と情報の網羅性です。こうした情報共有の円滑化は、個々のスタッフの気づきをチーム全体の知識へと変え、より質の高い、そして安全なチームナーシングの実践を後押ししてくれるはずです。ただし、ツールを導入するだけでなく、「どんな情報を、どのタイミングで、誰に共有するか」といったチーム内での明確なルール作りや、情報セキュリティへの意識も、効果的に活用していくためには不可欠と言えるでしょう。

3. 記録の手間を少しでも楽に:データ連携でケアに集中?

 日々の看護業務の中でも、看護記録の作成は多くの時間と労力を要する業務の一つです。 特に、危険行動の内容や頻度、それに対してどのようなケアを行ったか、そして看護必要度の評価などは、後々のケア計画や評価のためにも正確かつ詳細に残しておく必要があります。しかし、多忙な業務の合間を縫って記録を行うのは、本当に大変です。

センサーが検知した情報(例えば、夜間の離床回数やその時間帯など)や、スタッフがスマートフォンなどの端末で簡単に入力した観察記録が、自動的に電子カルテなどに反映され、記録として整理されるようになったら、どうでしょうか? まだ技術的に発展途上の部分もありますが、将来的には、こうした記録業務の自動化・効率化が進むことで、私たちが記録に費やしていた時間を大幅に削減できる可能性があります。実際に、音声入力システムを活用することで、看護記録時間を大幅に短縮した事例も報告されています。

記録時間が短縮できれば、その分、患者のベッドサイドで直接話を聞いたり、丁寧なケアを提供したり、あるいは少しだけ心に余裕を持って休憩を取ることができる。そんな時間的なゆとり、精神的なゆとりが生まれるかもしれません。また、センサーなどから得られる客観的なデータは、看護必要度の評価を行う際の重要な根拠の一つにもなり得ます。「なんとなく危ない感じがするから『危険行動あり』」といった主観的な判断に加え、「過去24時間で離床センサーの反応が〇回あった」「夜間の睡眠パターンがこのように変化している」といった具体的なデータを示すことができれば、より客観的で、スタッフ間でも共通認識を持ちやすい評価に繋がるはずです。日々のカンファレンスなどでケア方針を議論する際にも、こうした客観的なデータは、より建設的な話し合いを促すための有効な材料となりそうです。

4. データから「要注意サイン」が見える?:リスク予測で先回りケア

これは、まだ研究段階の部分も大きいですが、非常に興味深く、将来性が期待される分野です。それは、日々蓄積されていく膨大なデータ、例えば、看護必要度の評価データ、過去のインシデントレポート、電子カルテに記録された患者の状態変化や実施されたケア内容などを、AI(人工知能)なども活用して分析することで、危険行動や離院のリスクが高まる「要注意サイン」を事前に予測しようという試みです。

例えば、「特定の疾患(認知症、せん妄など)を持つ患者が、不眠が続く、特定の薬剤が開始/変更された、環境が変わったなど環境変化が発生すると、統計的に危険行動を起こしやすい傾向がある」といったパターンが、データ分析によって見えてくるかもしれません。あるいは、病院全体で蓄積された転倒・転落インシデントのデータと、その時の患者の状態(服用薬剤、活動レベル、看護必要度評価など)を分析し、個々の患者のリスクスコアリングに応用する、といった研究も進められています。

もし、こうしたリスク予測がある程度の精度で可能になれば、問題が起こる前に、より効果的な予防策を講じることができるようになります。例えば、リスクが高いと予測された患者に対して、病室の環境を早期に調整したり、より注意深く見守る体制をとったり、多職種(医師、薬剤師、リハビリスタッフなど)と連携して早期に介入したりといった、「先回りしたケア」の提供が可能になるかもしれません。もちろん、予測が全てではありませんし、倫理的な配慮も必要ですが、経験則だけに頼るのではなく、データに基づいた科学的なアプローチを取り入れることで、より効果的で個別化された予防ケアに繋がる大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。


機械まかせにはしない ~一番大切なのは看護師の視点~

ここまで、DX、すなわちデジタル技術が、危険行動や離院のリスク管理において、私たちの業務をどのように助けてくれる可能性があるのか、様々な側面から見てきました。効率化や負担軽減への期待は大きいですが、ここで改めて強調しておきたい大切なことがあります。それは、どんなに優れたテクノロジーが登場し、普及したとしても、看護ケアの中心にいるのは、看護師自身であり、その専門的な判断や温かい関わりは、決して機械に取って代わられるものではないということです。

患者の表情のわずかな変化から状態の悪化を察知したり、何気ない会話の中から本音や思いを引き出したり、不安な時にそっと背中をさすって安心感を与えたり…こうした五感を駆使した観察力、コミュニケーション能力、そしてケアリングの心は、テクノロジーがどれだけ進化しても、その価値が揺らぐことはありません。

大切なのは、テクノロジーを「脅威」と捉えたり、「機械まかせ」にしたりするのではなく、「私たちの能力を拡張し、ケアの質を高めるための、賢いパートナーであり、便利な道具」として捉え、主体的に活用していく視点を持つことではないでしょうか。 テクノロジーに任せられる部分は上手に任せて、それによって生まれた時間や心の余裕を、本来最も力を注ぎたいと考えている、患者一人ひとりの個別性に寄り添ったケアより人間的な温かみのある看護の実践に充てていく。そう考えれば、DXは専門性をさらに深化させ、より質の高い看護を実現するための強力な武器にもなり得るのではないでしょうか。

また、新しいツールの導入には、「覚えるのが大変そう」「操作が難しかったらどうしよう」「なんだか監視されているようで嫌だな」といった不安や戸惑いを感じるのも、ごく自然なことです。 だからこそ、新しい技術を導入する際には、使う側の私たちに対する十分な研修の機会や、困った時に気軽に質問したり相談したりできるサポート体制が整っていることも、安心して活用していくためには非常に重要になってきます。


まとめ

危険行動や離院への対応は、患者の生命と安全を守る上で避けては通れない、看護の極めて重要な側面です。それに伴う負担感や困難さは、多くの現場の看護師が日々、身をもって感じていることでしょう。

今回一緒に見てきたように、センサー・ビーコン技術や情報共有ツール、データ分析といったDX(デジタル技術)の力を上手に借りることで、その負担を軽減し、同時に患者の安全性をさらに高められる可能性が、着実に広がってきています。 もはや遠い未来の話ではなく、すぐそこにある現実の選択肢となりつつあります。

新しい技術の導入や活用には、コストの問題、運用ルールの整備、そして何よりも、私たち自身の意識改革やスキルの習得が必要となる場面もあるでしょう。 それでも、私たちが抱える現場の課題を解決し、より良いケアを提供していくための一つの有効な手段として、DXに積極的に目を向け、学んでいく価値は十分にあります。一人で、あるいは自分たちのチームだけで、すべての負担を抱え込もうとするのではなく、利用できるものは賢く活用しながら、チーム全体で、そしてテクノロジーという新しいパートナーと共に、「患者を支えるケアを実現していく。」そんな未来に向けて、まずは身近なところから情報収集を始めたり、院内で導入されているツールがあれば積極的に使ってみたりすることから、始めてみてはいかがでしょうか。看護師自身も、新しい技術について学び、変化に対応していく柔軟な姿勢を持つことが、これからの時代にはますます求められてくるのかもしれません。


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