はじめに
医療機関における働き方改革は、労働基準監督署による監査強化やスタッフの長時間労働の是正などを背景に、今や避けては通れないテーマとなりました。医師や看護師、その他医療スタッフの負担が増えやすい状況を放置すれば、離職率の上昇や人手不足という深刻な問題に直結しかねません。
そこで近年注目されているのが、勤怠管理の“可視化”によるデータドリブンなアプローチです。実際の勤務実態を数値やグラフで“見える化”できれば、現場の忙しさの偏りや過重労働の兆候を早めに察知しやすくなります。単に数字を集めるだけでなく、スタッフの定着や病院全体のサービス品質向上につながるポテンシャルがある点も大きな魅力です。
医療機関が抱える働き方の課題
1. 長時間労働の常態化
医師や看護師は夜勤やオンコールのほか、急患対応などに追われることが多く、勤務時間が長くなりがちです。国が主導する働き方改革でも、2024年4月からの医師の時間外労働上限規制に注目が集まっています。
看護師の働き方改革も2019年4月、大規模病院から順次導入が進められ、さらに2020年4月からは中小規模の医療機関にも拡大しました。こうした取り組みの狙いは、医療従事者の疲弊や離職による人手不足の悪循環を断ち切ることにあります。
2. シフト管理の複雑さ
一つの病院には外来、病棟、手術室などさまざまな部署があり、そこに加えて交代制勤務も組み合わさるため、シフト作成は本当に複雑です。
Excelや紙ベースでの管理が続くと、残業や休憩時間を細かく把握しづらい面があります。結果として、労務管理に不備が生じ、監査で指摘を受けるリスクが高まるケースも見受けられます。
3. 経営層との情報ギャップ
「現場の声が経営陣に届かない」「必要なデータを集めるのに時間がかかり、改善に向けた決定が遅れる」など、コミュニケーション不足も悩ましいところです。迅速かつ正確に働き方のデータを共有できなければ、全体的な組織改革は難しくなってしまいます。
4. 働き方改革レベルに応じた対応
医師の働き方改革では、以下の3つの水準が設けられているのもポイントです。
A 水準(年960時間以内): 通常水準(すべての医師対象)
B 水準(~年1,860時間以内): 地域医療確保暫定特例水準(地域医療体制の維持が必要な医療機関など)
C 水準(B水準よりさらに拡大): 集中的技能向上水準(特定の研修目的で一部の医師が対象)
こうした水準ごとに求められる働き方や対策が異なるため、医療機関には、個々のスタッフに合わせたきめ細かな対応が求められます。

データドリブンな勤怠管理のメリット
1. 過重労働の早期発見
クラウド型の勤怠管理システムなどを導入すれば、スタッフごとの勤務時間や残業状況をリアルタイムで追跡しやすくなります。夜勤や休日出勤がすぐにデータ反映されるので、疲労の蓄積などを早めに察知できるのは大きなメリットでしょう。
2. 部署・診療科ごとの分析
蓄積された勤怠データを分析していくと、「どの部署が慢性的に残業が多いのか」「急な欠員が多発している診療科はどこか」といった傾向が明確になります。外来と病棟では忙しくなる時間帯も異なるため、データに基づくアプローチがあれば繁忙期のシフトを最適化しやすくなります。
3. 累計分析(トレンド把握)による長期的な改善
特に有用なのが、ある一定期間を通じて数値を蓄積し、その推移を分析する「累計分析」です。たとえば残業時間や夜勤回数、有給取得などの要素を長期的に追えば、改善策の効果を客観的に評価することができます。
Policy | Description | Expected Outcome | Timeframe for Evaluation |
方針A | 夜勤手当を増額して、夜勤シフトへの参加意欲を高める | 夜勤の担当偏りが減る | 3か月後 |
方針B | 従来のExcel中心の勤務表作成をシステム化し、担当者の負担を軽減 | 残業時間が横ばいか減少に転じる | 半年後 |
こうしたデータは、グラフや数値で推移を確認できるため、経営層にもスタッフにも納得してもらいやすい材料になります。
4. 職場環境の可視化による定着率向上
長時間労働が慢性化している職場よりも、シフトや勤怠ルールが明確で休暇が取りやすい現場の方が、スタッフが長く働き続ける傾向にあるのは想像に難くありません。結果として、人材の定着が図られ、医療サービスの質が上がる可能性があります。

データの活用を進めるうえでのポイント
1. 現場の声を丁寧に拾う
いざシステムを導入すると、分析結果ばかりに目が向きがちですが、実際に働き方に影響を受けるのは現場スタッフです。「残業が増えがちな原因」や「休憩時間を確保しづらい背景」など、生の声はデータだけでは見えない部分を教えてくれます。定期的な面談やアンケートなどでコミュニケーションを重ねると、より的確な改革につながります。
2. 情報セキュリティに配慮する
勤怠データには個人の働き方に関する機密情報が含まれます。医療機関は患者情報だけでなくスタッフ情報も守らねばならないため、システム選定時にはセキュリティ体制がしっかりしているか、ISO27001などの認証を取得しているかを念入りにチェックする必要があります。
働き方の“可視化”を支えるBI機能
最近では、多くの勤怠管理システムに「BI(Business Intelligence)」機能が搭載されています。BI機能があると、単なる打刻管理やシフト作成だけでなく、部署比較や累積分析、長期的なトレンド把握まで一括で行えるのが特長です。
時間軸を長くとった分析ができる
施策前後の変化量を可視化し、効果測定に活かせる
スタッフ負担の減少度合いを数値で示せる
定期的なPDCAサイクルをまわしやすい
たとえば「年度単位の残業時間推移」や「看護師の離職率と夜勤回数の相関」といった情報も整理されるため、より精度の高い経営判断が可能になります。個人的にも、こうした長期的な視野をとれる分析はとても有益だと感じます。
具体的な画面例
ダッシュボード:当日の残業見込みなど、リアルタイム勤怠状況を一目で確認
累積グラフ:部署ごとの残業時間推移や有休取得率を月・年単位で比較
レポート機能:短報やトピックスを自動生成し、ExcelやPDF形式で出力

まとめ
働き方を“見える化”することは、スタッフの定着率アップや労働トラブルの予防、ひいては医療サービス全体の質向上につながる重要なステップです。データに基づいた勤怠管理を土台にすれば、部署や職種の状況を客観的に評価しながら最適な人員配置を検討できますし、長期的なトレンド分析を通じて継続的に改善を重ねることが可能になります。
特に、累計分析機能を含むBIツールを活用すれば、年度単位の勤務時間推移や施策の効果検証まで一元的に行えるため、より細やかな経営判断に役立ちます。働き方改革の必要性が叫ばれて久しい今こそ、医療機関が勤怠管理を見直し、データに裏打ちされた改革を進めていく絶好の機会ではないでしょうか。
最後にもう一つ大切なのは、データと併せて現場からのフィードバックを継続的に集めることです。数字だけを追うのではなく、スタッフのリアルな声を踏まえて施策を調整していけば、組織全体の納得感も高まり、改革へのモチベーションが自然と続くはずです。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
彩名
このライターの記事一覧




