はじめに
医療現場において、当直は欠かせない存在です。緊急時にすぐ対応できる体制があるからこそ、多くの患者さんが安心して過ごせます。しかし、少子高齢化による医師不足や過重労働の深刻化が背景にある中、当直業務をめぐる状況は大きく変わりつつあるように感じます。
厚生労働省が推進している働き方改革は、医師の長時間労働に対して強い問題意識を持っており、夜勤や当直の在り方についても見直しが不可欠となっています。労働環境の改善やシフト管理の最適化は、患者さんの安全と医師の健康を両立させるために非常に重要です。
本記事では、現場が抱える課題、働き方改革がもたらす変化、そして「宿日直許可取得」など制度面の動向について解説していきたいと思います。
当直の現状
深刻化する医師不足と過重労働の実態
医師不足は、高齢化や医師の偏在など様々な要因が複雑に絡み合い、深刻化の一途を辿っています 。その結果、病院勤務医は長時間労働となっている場合が多く見受けられます。例えば、1週間の平均労働時間は60時間を超えているというケースも少なくなく、依然として長時間労働が常態化している病院も多い状況です。
時代とともに増す医師の負担と疲弊
医師の業務は、医療技術の進歩や患者ニーズの多様化に伴い、増加の一途をたどり、複雑化しています。加えて、当直明けにも十分な休息を取ることなく日勤をこなし、休日は週に1日程度という勤務医も多く存在し 、疲労やストレスの蓄積は深刻な状況です 。睡眠不足や過労による集中力・判断力の低下は、医療事故のリスクを高めるだけでなく、医師自身の健康にも悪影響を及ぼします 。
近年「医師の働き方改革」が叫ばれていますが、未だ抜本的な解決には至っていません。医師不足と過重労働の悪循環を断ち切り、医師が心身ともに健康で働き続けられる環境を作るためには、AI・遠隔医療の導入や医療DXの活用による負担軽減などの対策を進めることはもちろん、引き続き「医師の働き方改革」を社会全体で取り組む必要があります。

働き方改革で注目される当直の課題
1. 長時間労働と健康被害のリスク
政府が推し進める働き方改革の重要な柱の一つに、「長時間労働の是正」があります。医療現場では緊急対応が求められるため、一律に労働時間を制限することが難しいという現実がありますが、過剰な勤務は医師本人だけでなく医療機関や患者にもリスクをもたらします。
また、心身の疲労や睡眠不足は医療の安全性を損なう要因になり得ます。患者の体に関わる重大な仕事だからこそ、当直という働き方は慎重に見直す必要があるでしょう。
2. シフト管理・人員配置の難しさ
「どの診療科が何人の当直をどのような頻度で行うか」は、病院経営陣やシフト管理担当者にとって大きな悩みです。医療ニーズが高まる繁忙期や地域医療の需要を考慮すると、柔軟なシフト作成は容易ではありません。さらに、オンコールやチーム制導入など、現場の事情によって最適な解決策は異なります。
管理職やDX担当者がシフト管理システムを導入しても、運用面での調整が複雑になりがちです。働き方改革に沿って勤務時間の上限を厳守しようとすれば、現行の当直体制を根底から再構築する必要がある病院も少なくありません。
3. 若手医師のキャリア形成との両立
当直は若手医師が救急対応や夜間診療の現場を経験する貴重な機会でもあります。しかし、当直漬けのような過度な負担が慢性的に続くと、学会発表や専門資格の取得に向けた勉強時間も確保しにくくなります。その結果、若手医師のモチベーションを低下させ、キャリア形成が思うように進まない事態が起こり得ます。
医師の育成にはある程度の当直や夜勤の経験が重要とされる一方で、過度な負担の放置は人材の流出につながる可能性もあるため、病院経営側には難しい舵取りが求められます。

働き方改革がもたらす変化とメリット
1. 労働環境の改善と健康管理
医師の働き方改革では、時間外労働の上限規制が導入され、原則として年間960時間以内、月100時間未満と定められました。これにより、過重労働が抑制され、医師の健康状態の悪化を防ぐことが期待されます。具体的には、以下のようなメリットがあります。
疲労やストレスの軽減:
労働時間の短縮は、疲労やストレスの蓄積を軽減し 、心身の健康改善に繋がります。睡眠時間の確保:
労働時間の上限規制により、睡眠時間を確保しやすくなり 、集中力や判断力の維持に役立ちます。プライベート時間の確保:
労働時間の短縮は、家族や友人と過ごす時間など、プライベートの時間を確保する余裕を生み出します。
2. チーム医療の強化・連携の促進
医師の働き方改革では、タスク・シフト/シェアが推進され、医師の業務の一部を他の医療従事者に委譲することで、医師の負担軽減と同時に、チーム医療の強化を促進しています。
多職種連携の進化:
タスク・シフト/シェアによって、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフなど、多職種がそれぞれの専門性を活かし、連携して患者をケアする体制が強化されます。患者中心の医療:
チーム医療は、多角的な視点から患者を総合的に診ることで、患者中心の医療を提供することに繋がります。医師の専門性向上:
医師は、他の医療従事者と連携することで、より専門性の高い業務に集中できるようになり、医療の質向上に貢献できます。
3. 医療DXの活用による効率化
医療DXの導入は、医師の業務効率化に大きく貢献し、働き方改革を推進する上で重要な役割を担います。
AIによる業務支援:
AI問診システムや画像診断支援システムなど、AIを活用することで、医師の業務負担を軽減し、診断の精度向上や効率化が期待されます。データ活用による業務改善:
電子カルテシステムや医療情報データベースなどを活用することで、情報共有や業務効率化が進み、医師の負担軽減に繋がります。オンライン診療の活用:
オンライン診療は、患者の利便性向上だけでなく、医師の移動時間削減にも繋がり、働き方改革にも貢献します。
医師の働き方改革は、長時間労働の是正、医療の質向上、チーム医療の強化など、医療現場全体に好影響をもたらします。医療DXの活用と相まって、より働きやすい環境が実現することで、医師が本来の業務に集中し、患者に質の高い医療を提供できる体制が構築されることが期待されます。

当直改革を支える取り組み事例
宿日直許可取得の見直し
医師の働き方改革に伴い、多くの医療機関で当直体制の見直しが喫緊の課題となっています。特に、宿日直許可の取得状況は医師の労働時間管理に直接影響するため、重要な要素となります。
従来、宿日直許可は取得が難しいとされてきましたが、医師の働き方改革を契機に、許可取得に向けた取り組みや見直しが進んでいます。例えば、24時間体制の維持が不可欠な救急科や産科などでも許可を取得している事例があります。
許可取得の可否は、医療機関の規模や診療科、業務内容、医師の勤務体制など、多岐にわたる要因によって判断されます。そのため、個々の医療機関の実情に合わせて宿日直勤務の内容や労働時間などを精査し、許可基準を満たすための調整を行う必要があります。
宿日直許可の取得は医師の労働時間管理を適正化し、働き方改革を推進する上で重要な役割を担います。許可取得に関する最新情報の収集や専門家への積極的な相談を通じて、より働きやすい環境づくりを目指しましょう。
システム導入によるシフト管理・勤怠管理の効率化
近年、医療現場における医師の働き方改革が推進される中、当直業務の効率化は重要な課題となっています。そこで、システム導入によるシフト管理・勤怠管理の効率化が注目されています。
例えば、ある病院では、従来の紙ベースでの管理からクラウド型のシステムに移行することで、医師の勤務状況をリアルタイムに把握できるようになりました。これにより時間外労働の抑制や医師の負担軽減に繋がっています。
また、別の病院ではシステム導入により複雑な勤務パターンに対応したシフト作成を自動化し、医師の希望休やスキルを考慮したシフト作成が可能になりました。
さらに、ビーコンを活用した勤怠管理システムを導入した病院では、医師の在院時間や勤務間インターバル時間を正確に把握できるようになり、労働時間管理業務の効率化に成功しています。
このように、システム導入によって当直業務におけるシフト管理・勤怠管理を効率化し、医師の働き方改革を推進する事例も増えているようです。
参考:Dr.JOY勤怠管理システム
医療機関内での夜間救急対応マニュアル整備
医師の働き方改革が着実に進展する中、医療機関では、夜間救急対応の効率化と医療の質向上を目指し、対応マニュアルの整備が積極的に進められています。
例えば、ある病院では夜間救急対応マニュアルを整備し、緊急時における役割分担、連絡体制、初期対応などを明確化しました。これにより医師や看護師がスムーズに連携し、迅速で適切な対応が可能になりました。
また、別の病院では、マニュアルに患者の緊急度判定基準や、症状に応じた対応フローチャートを盛り込むことで、適切なトリアージと迅速な処置を実現した例もあります。
このように、夜間救急対応マニュアルの整備は、医師の負担軽減だけでなく患者への質の高い医療提供にも貢献する重要な取り組みと言えるでしょう。

まとめ
医師当直は、長年にわたり「患者の命を守る最後の砦」として機能してきました。一方で、医師不足や過度な長時間労働など深刻な問題も抱えており、働き方改革によって根本的な見直しが求められる段階を迎えています。
今後は、“やむを得ない夜間対応”としての当直から、“持続可能な体制”としての当直へ転換する動きがより加速していくでしょう。宿日直許可の在り方を再検討する病院が増加していることも、その明確な証拠と言えます。
また、医療DXによるシフト管理や情報共有の効率化、多職種連携によるチーム医療の強化など、さまざまな改革が現場で進行中です。
当直改革をうまく進めることで、医師個人の健康・キャリア形成をサポートし、患者さんにも高品質な医療を届けることが可能になります。
働き方改革は病院の将来を大きく左右するテーマです。医療従事者が安心して働ける環境を整えることは、ひいては患者さんの安心・安全にもつながります。この機会に、自院の当直体制を見直し、より良い体制へと進化させてみませんか。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
鈴木
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