はじめに
夜間医療では、患者の状態の急変、重症化リスクが高い時間帯でありながら、スタッフ数や診療科の専門医が限られているというジレンマに直面するケースは少なくありません。
こうした課題を克服するために、近年はICT(情報通信技術)の活用に注目が集まっています。具体的には、オンコール体制の整備や宿直業務の支援にデジタルツールを導入し、夜間医療全体の効率化と患者の安全を両立させる取り組みが進み始めました。
本記事では、オンコール・宿直におけるICT導入のメリットや具体的な活用事例、導入時の注意点などを詳しく解説し、夜間医療のさらなる発展につなげるヒントを探っていきたいと思います。
オンコール・宿直におけるICT導入のメリット
1.リアルタイムの情報共有
夜間帯は突発的な救急搬送や急変が発生する可能性が高いため、情報共有のスピードと正確性が医療の質に直結します。従来は電話や個人のスマートフォンで連絡を取り合うケースが多かったものの、そうした手段では緊急時に一度に複数のスタッフへ情報を展開するのが難しい場合があります。
また、口頭連絡では聞き間違いや伝言ミスが起こりやすく、医療事故のリスクを高める原因にもなりかねません。
そこで、オンライン会議システムや専用のコミュニケーションツールを活用することで、複数のスタッフが同時に同じ画面や音声、テキストを共有できます。
例えば、スマートフォンやタブレット端末にインストールしたアプリを使えば、夜間の急変時に医師や看護師、検査技師など関係者全員へ瞬時に通知を送ることが可能です。写真や動画、音声通話による状況説明など、複数のメディアを組み合わせることで、従来よりも正確な情報伝達が期待できるでしょう。
2.業務負荷の可視化と分散
夜間はどうしても突発的な処置や緊急オペ、救急患者対応が重なることがあり、スタッフによっては過度な業務負荷がかかることがあります。
特に、オンコール担当者が連続して呼び出されてしまうような状況が続くと、体力的・精神的なストレスが大きくなるでしょう。こうした負担の偏りを放置してしまうと、医療事故のリスクだけでなく、スタッフの離職率上昇といった深刻な問題にもつながります。
ICTを活用したシフト管理システムを導入すれば、誰がどの患者やどの業務を担当しているかが一覧で可視化されるため、業務の偏りに気づきやすくなります。リアルタイムにタスク量が把握できれば、緊急時に誰が手を空けられるかを即座に判断でき、チームでフォローし合う仕組みを構築しやすくなります。オンコールの呼び出し履歴や宿直中の対応記録などもデータとして蓄積できるので、次回以降のシフト計画作成やスタッフ配置にも役立つでしょう。
3.患者安全の向上
患者の安全性を高めるうえで、夜間帯でも正確かつ迅速に対応できる仕組みを整えることは不可欠です。遠隔モニタリングや電子カルテの情報照会がスムーズに行える環境があれば、たとえ院外にいる専門医でも、必要なときに適切な判断を下すことが可能になります。
たとえば、循環器領域のオンコール担当医が自宅にいても、病院内のモニター情報や心電図データを確認し、「すぐに病院へ行くべきか」「電話指示ですぐ対応できるか」といった判断を素早く行えるようになるでしょう。夜間の医療は限られたリソースで緊急度の高い場面に対応するため、こうした専門医の知見がリアルタイムで活用できる仕組みがあると、患者の転帰を大きく改善できる可能性があります。

具体的なICT活用例
1.オンコール通知システム
以前はPHSや携帯電話での呼び出しが一般的でしたが、クラウド型のオンコール通知システムを導入すると、「どの部署でどんなトラブルが起きているのか」「どのスタッフが呼び出し対象になっているのか」を全体で共有しやすくなります。
メッセージの一斉配信や既読機能などを活用すれば、誰が連絡を受け取っているかを可視化でき、対応の重複や連絡漏れを最小限に抑えることができます。
また、こうしたシステムには通話録音機能やチャット履歴の保存機能が備わっていることも多く、トラブル発生時の検証や医療安全管理にも役立ちます。スタッフ全員が同じ画面で状況を把握できるため、「誰に連絡するべきかわからない」「応援要請を出すタイミングを逸してしまう」といったストレスも軽減されるでしょう。
2.電子カルテ連携と情報参照
夜間帯の患者対応では、持病やアレルギーの有無、投薬履歴などをいかに迅速に確認できるかが治療の質に直結します。電子カルテと連携するタブレット端末やスマートフォンがあれば、スタッフは移動しながらでもカルテ情報や検査結果を確認可能です。
これにより、病棟のベッドサイドで必要なデータをすぐにチェックし、指示出しや治療方針の検討を行えるため、患者を待たせる時間を短縮できます。
また、オンコール担当の専門医が自宅で待機している場合でも、電子カルテにアクセスできれば事前に患者の症状や検査値を把握し、病院へ到着する前に初期対応の指示を出すことも可能になります。
ただし、電子カルテの閲覧や操作を行う際には、情報セキュリティに十分注意する必要があります。端末の紛失や盗難を防ぐための対策や、アクセス権限の適切な設定が必要です。
3.遠隔医療とオンライン支援
遠隔医療(Telemedicine)は近年急速に拡大している分野で、夜間医療の現場でも大きな可能性を秘めています。地方の救急病院や診療所では、専門医が常駐していない時間帯に高度な診断・処置が必要になる場合があります。
そんなとき、都市部の病院とオンラインでつなぎ、専門医が遠隔コンサルテーションを行うことで、緊急手術の要否や搬送の要否をスピーディに判断できる仕組みが整えば、患者の救命率やQOL(生活の質)が向上することも期待されます。
実際に、遠隔画像診断システムを導入してCTやMRIの画像を専門医に送信し、短時間でセカンドオピニオンを得られるようにしている病院も増えています。夜間帯に脳神経外科医や循環器内科医などの高度専門医が不在でも、オンライン連携によって適切な指示を仰ぎやすくなるのは現場にとって大きなメリットです。ただし、遠隔医療の普及には、通信環境やセキュリティ対策、医療法上の規制などの課題があります。

ICT導入時の注意点と導入プロセス
1.コストと運用面の課題
システム導入には初期投資や月々のランニングコストが発生します。ハードウェアの購入費、ソフトウェアのライセンス料、ネットワーク環境の整備など、導入時に必要な資金は決して小さくありません。さらに、医療は365日24時間稼働しているため、システム障害が起きた際のバックアップ体制やサポート契約などを検討する必要があります。
大規模な病院であれば比較的導入しやすいかもしれませんが、中小規模の医療機関でも近年、クラウドサービスの普及により、初期投資を抑えたICT導入が可能になっています。中小規模の医療機関でも、クラウド型のシステムやSaaS(Software as a Service)を活用することで、コストを抑えながらICT化を進めることができます。
まずは一部部署のみでトライアル運用を行い、効果や問題点を把握したうえで徐々に範囲を広げるなど、段階的な導入計画を立てることが成功の鍵でしょう。
2.スタッフ教育とリテラシーの向上
ICTは使い方を誤るとかえって混乱を招く場合もあります。新しいツールやシステムを導入する際には、スタッフ全員が基本的な操作方法やトラブル対処法をしっかり理解することが不可欠です。特に夜間帯はスタッフが少なく、熟練者のヘルプを得にくい状況が想定されるため、操作が複雑なシステムだと現場で混乱が生じるリスクが高まります。
そのため、操作マニュアルの整備やシミュレーション研修、定期的な勉強会の開催などでスタッフのICTリテラシーを向上させる努力が必要です。
3.セキュリティとプライバシー保護
ICTを導入する場合、データ通信やシステムログインなどに際して暗号化や多要素認証を適切に行い、不正アクセスを防止する仕組みを整えることが不可欠です。
また、業務端末を紛失・盗難した場合に備え、リモートワイプ機能やアクセス権限の厳格な設定など、セキュリティ対策に妥協は許されません。
さらに、スタッフ全員がプライバシー保護や情報セキュリティの重要性を共有し、マニュアルやルールを徹底する文化づくりが大切です。

まとめ
ICTを活用したオンコール・宿直体制の整備は、夜間医療における効率化と患者安全の向上を実現するうえで大きな可能性を秘めています。夜間帯におけるリアルタイムの情報共有、業務負荷の可視化・分散、専門医との迅速な連絡体制など、従来の人力や電話連絡だけでは限界があった部分をテクノロジーで補完できるのは大きなメリットです。
一方で、初期コストやスタッフ教育、セキュリティ体制など、導入に際してクリアしなければならない課題も多く存在します。最初から完璧を目指すのではなく、一部機能からスモールスタートで取り入れてみるのも有効な戦略ではないでしょうか。
いずれにしても、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れが加速する中で、医療現場においてもICT化の波が止まることはありません。夜間のオンコールや宿直でお悩みの施設では、まずは小規模なシステム導入やツールの試験利用などから始めてみるのも選択肢の一つだと感じます。
スタッフ連携や夜間業務をサポートする機能を探している方は、ぜひ各社が提供する関連サービスの公式ページをチェックしてみてください。こうした取り組みが積み重なることで、夜間医療の安全性と働きやすさは今後さらに向上していくと期待しています。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
彩名
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