- はじめに
- 医療現場でのフレックス導入の基本概念
- 1. フレックスタイム制の仕組みと一般企業との違い
- 2. 患者ケアとの両立をどう考えるか
- 3. 勤務シフトとの兼ね合い:柔軟性とチーム医療のバランス
- 導入に立ちはだかる課題:医療現場特有のハードル
- 1. 病院組織内での調整が難しい理由
- 2. 業務内容の繁閑差と患者対応のタイミング
- 3. 法規制や安全管理上の制約
- フレックス導入を可能にする工夫とDX活用
- 1. シフト管理システムや遠隔勤務ツールの導入例
- 2. 職種ごとの業務分担と連携強化
- 3. トライアル導入から始める:リスクヘッジしながら柔軟性を試す
- 実際の事例紹介:成功要因と失敗事例から学ぶ
- 1. フレックスタイム制を一部導入した病院の成功事例
- 2. 導入がうまくいかなかったケース
- フレックスタイム制がもたらす未来:持続的な働きやすさを目指して
- まとめ
はじめに
医療従事者の働き方改革が叫ばれる中、最近は「フレックスタイム制」をはじめとする柔軟な勤務形態が注目されています。医師の働き方改革が進むなかで、制度としては注目されているものの、実際に医療現場で導入している例はまだ少ないという統計もあります。果たして、患者ありきの医療現場で本当にフレックスは導入できるのでしょうか。
本記事ではは、医師をはじめとする医療従事者の働きやすさを実現するうえでのフレックスタイム制の可能性と、実際に導入を進めようとするときに立ちはだかる課題、そしてそれらを乗り越えた医療現場の事例をご紹介します。
働き方改革の観点から「変形労働制」など他の制度との違いに触れつつ、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)との関係にも目を向けてみたいと思います。
医療現場でのフレックス導入の基本概念
1. フレックスタイム制の仕組みと一般企業との違い
フレックスタイム制とは、1日の勤務開始や終了の時間帯を従業員自身が一定の範囲内で決められる働き方の制度です。一般的に「コアタイム」と呼ばれる必ず勤務しなければならない時間帯と、「フレキシブルタイム」と呼ばれる出退勤時間を比較的自由に設定できる時間帯が存在します。
一方、医療現場では一般企業と違い、患者対応や緊急対応が不可欠です。企業であれば「コアタイム中に会議があれば出社し、それ以外は在宅勤務や時差出勤をする」という運用も比較的スムーズですが、病院では「コアタイムだけ来ればOK」とはいきません。
急患対応や夜間対応など、24時間365日休みなく運営する必要があり、その一部にフレックスタイム制を導入するだけでも、シフトや当直体制に大きな影響を及ぼします。
2. 患者ケアとの両立をどう考えるか
患者の受診時間は原則的に病院の診療時間帯に集中します。また、急に病状が変化することもあるため、ある程度決まった時間で「待機」が必須となります。フレックスタイム制を取り入れることで自由度が上がる一方、「万が一のときに誰が対応するのか」という課題があります。
そのため、診療科や部署ごとに必要な人員配置やピークタイムが異なる医療現場では、フレキシブルタイムの範囲をどう設定するかが大きなポイントになります。
例えば、外来を担当する医師のフレックスタイム制と、病棟管理をメインに行う医師のフレックスタイム制を同じように考えるのは難しいかもしれません。職種やチームごとに最適化した設計が求められます。
3. 勤務シフトとの兼ね合い:柔軟性とチーム医療のバランス
病院では、一般企業のように「出社して自分の業務をこなす」という単純なスタイルだけでは成立しません。多職種連携が前提となり、医師は看護師や薬剤師、放射線技師、事務スタッフなど様々な職種と協力して患者をケアします。
このため、フレックスタイム制を導入するには、チーム医療の連携に支障が出ないようにする仕組みづくりが欠かせません。例えば外来診療を行う時間帯やカンファレンスの実施時間帯は、必ず全員が集まらなければならないコアタイムとして設定するなど、慎重な調整が必要です。

導入に立ちはだかる課題:医療現場特有のハードル
1. 病院組織内での調整が難しい理由
医療機関は縦割り組織の側面が強く、診療科間での業務分担や勤務ルールがバラバラなことも少なくありません。
また、医師の働き方をどう変えるかは管理職だけでなく、院内の各部署や関連する職能団体との合意形成が不可欠です。フレックスタイム制を一部導入するとしても、他の診療科や部署が連動していなければ、大幅な人員不足や情報共有の遅れにつながる可能性があります。
さらに、医師の勤務形態を見直すには、看護師やコメディカルスタッフの勤務体制も同時に検討しないと、現場が混乱するリスクがあります。「医師だけがフレックスタイム制で自由にシフトを組む一方、看護師は従来通り」という状況では連携が難しくなることも想像に難くありません。
2. 業務内容の繁閑差と患者対応のタイミング
業務量が一定ではない医療機関では、「忙しい時間帯」と「比較的落ち着いている時間帯」の差が大きいです。救急や集中治療が多い病院ではなおさら、夜間の救急搬送が増える時期やインフルエンザの流行期など、繁忙期と閑散期がはっきりしている場合があります。
フレックスタイム制を導入すると、勤務開始・終了時間が個々で異なるため、繁忙期にスタッフが十分足りるのかという不安が生じます。そこで、「どの診療科・部署がいつ忙しくなるか」という情報を全体で共有しておく仕組みが求められます。
3. 法規制や安全管理上の制約
医療現場には、診療報酬制度や保険診療のルール、医療法などさまざまな法規制が絡んでいます。診療報酬の算定には医師の在院時間や対面診療の有無が関係するケースも多いため、フレックスタイム制によって「医師が不在の時間帯」が増えると算定要件を満たせなくなる可能性があります。また、医療安全の観点でも「必ず○名以上の医師が常駐すべき」という取り決めが存在する場合もあるでしょう。
こうした制約への適切な対策として、変形労働制を組み合わせる病院もあります。1日の中で柔軟に働けるフレックスタイム制と、月や年単位でシフトを調整する変形労働制を組み合わせることで、業務量が集中する時期に人員を手厚くする運用を目指すという考え方です。

フレックス導入を可能にする工夫とDX活用
1. シフト管理システムや遠隔勤務ツールの導入例
フレックス導入を検討する病院では、まずは「シフト管理システム」を導入してみると、勤務形態の可視化と最適化が進みやすくなります。
例えば、電子カルテやオンライン診療のシステムと連携して、各医師の勤務時間をデータとして蓄積し、診療予約やオーダーが集中している時間帯を自動で分析してくれるような仕組みがあれば、繁閑の差を見極めつつ効率的にシフトを組みやすくなるでしょう。
また、医療DXの一環としてオンライン診療やテレワークを活用できる診療科であれば、在宅での問診やアドバイスを行うことで、コアタイムの設定幅を広げられる可能性があります。
2. 職種ごとの業務分担と連携強化
「フレックスタイム制を導入すれば、医師の負担は軽くなる」という単純な図式ではなく、他の職種がカバーすべき業務を増やしてしまわないかも慎重に検討する必要があります。医師が柔軟に働けるということは、時間帯によっては医師が少なくなる可能性があるということでもあります。
そこで、事務スタッフが担える業務を明確化して、時間外の書類作成や入力作業などをサポートする仕組みを整備するなど、職種間の連携を強化することが重要です。DXツールの活用により、タスクの共有や引き継ぎがスムーズになると、医師自身がフレキシブルに出退勤しやすくなるでしょう。
3. トライアル導入から始める:リスクヘッジしながら柔軟性を試す
まずは一部の診療科や部署で試験的に運用する際は、患者数や緊急対応数が安定している部署や、夜間や早朝の業務が多い部署などで試してみると、メリット・デメリットが把握しやすくなります。
トライアル期間中には、スタッフへのアンケートや業務効率の計測などを実施し、導入効果や問題点を検証すると良いでしょう。少しずつ運用ルールをブラッシュアップしていくことで、病院全体へ段階的に拡大する際のリスクを軽減できます。

実際の事例紹介:成功要因と失敗事例から学ぶ
1. フレックスタイム制を一部導入した病院の成功事例
ある中規模病院では、検査部門と外来部門の一部でフレックスタイム制を試験導入しました。外来は平日の日中が繁忙時間帯となるため、そこをコアタイムと設定し、早朝や夕方以降は少人数での対応を想定しました。
一方、検査部門では夜間検査が少ないこともあり、朝方から昼過ぎにかけてはスタッフを増やし、夕方以降には減らすといった勤務シフトを組みやすくなったそうです。
結果として、医師や検査技師が「ラッシュアワーを避けて出勤できる」「余裕をもって退勤できる」などのメリットを感じ、モチベーション向上につながりました。また、患者からも「夕方遅めの時間でも一部検査が受けられるようになった」と好評だったようです。
2. 導入がうまくいかなかったケース
一方で、同様のフレックスタイム制を導入しようとした別の病院では、急性期病棟の医師が出勤時間を遅めに設定することで、朝のカンファレンスや回診が滞る問題が発生しました。
また、システム面での整備が不十分で、どの時間帯に何人のスタッフが必要か明確になっていなかったことも混乱の要因となりました。
最終的に「患者対応に支障が出る」と判断され、フレックスタイム制は一旦取りやめることに。
この失敗例からは、フレックス導入の前に「病院全体の必要人員や業務フローをしっかり可視化する」「必須のカンファレンスや回診などは参加必須としてコアタイムを厳密に設定する」ことの重要性が分かります。
フレックスタイム制がもたらす未来:持続的な働きやすさを目指して
フレックスタイム制は、医師のライフスタイルに合わせた働き方を可能にし、働きやすさを高める大きな手段の一つです。医師不足や長時間労働という構造的な問題の解決には至らないかもしれませんが、働き方を自由に調整できることでバーンアウトを防いだり、育児や介護との両立をサポートしたりする効果が期待できます。
また、医療DXがさらに進展すれば、オンライン診療やテレワークの枠組みが一層充実し、病院にいなくても対応できるタスクが増えてくるでしょう。
これによって、コアタイムを病院内での業務に集中させ、フレキシブルタイムを在宅勤務や学術研究、あるいはプライベートな時間にあてるといった新しい働き方が実現する可能性もあります。医療現場におけるフレックスタイム制は、まさに今、さまざまな可能性を探っている最中と言えそうです。

まとめ
フレックスタイム制の導入は、医療現場ではまだまだハードルが高い面もありますが、成功事例からは下記のポイントが見えてきました。
必要な人員配置と勤務フローの可視化:
フレックスの可否を検討する前に、どのタイミングで何人必要かをデータ化し繁閑差を把握することが重要です。コアタイムの明確化:
病院や診療科によって必須のミーティングやカンファレンス、外来診療の時間帯をしっかり設定し、連携に支障が出ないようにします。システム・ツール導入による業務効率化:
シフト管理システムやオンライン診療の活用など、医療DXの視点を取り入れることでフレックス運用の柔軟性が高まります。段階的なトライアルとフィードバック:
一部部署での試験運用から始め、スタッフや患者の声を反映して徐々に拡大する方法がリスクを抑えます。
実際にフレックスタイム制や変形労働制の導入を検討される際は、まずは自院の勤務状況や法的要件を整理し、専門家への相談や情報収集を行うことが大切です。
さらに、シフト管理や勤怠管理を円滑にするソリューションを取り入れると、運用負荷が大きく下がります。もし具体的なシステム導入や運用支援について詳しい情報をお探しでしたら、ぜひ当社Dr.JOYの公式ホームページもご覧いただければと思います。
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Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
鈴木
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