はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、医療現場に多大な負担をもたらしました。その一方で、以前から議論されていた医師の働き方改革を一気に加速させる契機にもなったと感じています。
従来の診療体制や病院運営が限界に近づく中、オンライン診療やタスクシフトの推進、さらには多職種連携の強化といった「働き方改革の鍵」がコロナ禍によって急速に注目されるようになりました。
そしてポストコロナを見据えた現在、病院経営の在り方やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が、より一層重要なテーマになっています。
コロナ禍で顕在化した医師の働き方改革の課題
1.オンライン診療が加速した背景
コロナ禍により対面の診療を控えざるを得ない状況が続くなか、オンライン診療や遠隔ケアといった接触機会を減らす手法が急速に普及しました。日本国内では、厚生労働省がオンライン診療の緊急的な規制緩和を進め、2020年から2021年頃にかけてオンライン診療を届け出た医療機関数が大幅に増加したとするデータも存在します。
こうした背景には、感染拡大を食い止める必要性が高まり、医療機関がやむを得ず新しい診療形態を試験的に導入せざるを得なかったという事情もありました。
オンライン診療の拡大は、患者の通院負担を軽減すると同時に、院内の混雑を抑えて感染リスクを下げるというメリットがあります。
ただし、システム導入やスタッフの教育、さらにはオンライン診療に対する報酬体系の整備が追いつかないなど、課題も多く残っているのが実情です。2022年や2024年の診療報酬改定においてオンライン診療の評価は見直されつつありますが、今後どのように恒久化されるかは医療機関にとって重要な関心事といえます。
2.ICT化による業務効率化の必要性
オンライン診療を軸とした非対面型医療サービスを本格的に活用するには、電子カルテや遠隔モニタリングシステム、ビデオ通話ツールといったICT(情報通信技術)の導入が欠かせません。
紙ベースの運用が中心だった病院では、オンライン診療どころか電子カルテへの移行すらも道半ばというケースが見受けられました。しかしコロナ禍(2020年以降)によって、業務効率化や働き方改革を進めるためにはICTの活用が不可欠であることが、これまで以上に明確になりました。
従来は先送りされてきたシステム投資や人材育成が、この数年で大きく進み始めたことは、厚生労働省の調査結果などでも示唆されています。電子カルテ導入率やオンライン会議システムの普及率は上昇し、紙を前提とした事務処理の見直しが加速しているのは興味深い変化です。

病院運営の変化:感染対策と通常診療の両立
1.感染対策を優先した診療体制の再編
コロナ禍初期(2020年〜2021年頃)には、感染症病棟の確保や動線の分離、発熱外来の設置など、病院全体で多くのリソースを感染対策に注がねばなりませんでした。
当然ながら、通常の外来や手術、定期検診に割ける人員は限られ、医師や看護師の業務負担は増大。緊迫した現場では、人手不足や残業の常態化といった「医師の働き方改革の逆行」ともいえる状況が広がったのです。
その後、2023年5月には感染症法上の分類が変更され、新型コロナウイルス感染症は「5類相当」の取り扱いとなりました。
しかし、感染症が完全に終息したわけではなく、各医療機関は依然として、感染防止策を維持しながら通常診療の体制を回す必要があります。この問いに対応するため、病院は従来の診療プロセスを再検討しました。その結果、オンライン診療を活用した患者トリアージや、各種書類の電子化、スタッフの配置転換など、多角的な改革が進められています。
2.多職種連携とタスクシフト
感染症対応という切実な問題に直面することで、医師以外のスタッフとの連携の重要性が改めて浮き彫りになりました。コロナ以外の病気や慢性疾患を抱える患者も少なくないため、医師ばかりに負担が集中しないよう、看護師・薬剤師・事務スタッフなど多職種が協力しながらケアを行う仕組みが急速に普及しています。
また、医師が行っていた事務作業を医療クラークなどに任せる(※法令上許容される範囲に限る)など、タスクシフトの推進も欠かせないポイントです。医師法や保助看法などにより、医師しか行えない行為は厳格に規定されていますが、「医師でなくてもよい業務」についてはできる限り分担する方向にシフトし、結果的に医師が患者対応に集中しやすい環境が整いつつあります。

ポストコロナを見据えた病院経営とDXの融合
1.柔軟性とスピードが求められる時代へ
ポストコロナ時代は、感染症流行の波が大きくなったり小さくなったりを繰り返す「ウィズコロナ」の状況が続いていくと予想されています。したがって、病院経営には変化に対応する柔軟性とスピードが不可欠です。
たとえば、再拡大の兆しが見えたときにはオンライン診療や院内動線の分離を強化し、感染リスクが落ち着けば対面診療を増やすなど、患者ニーズや病院の実情に合わせてダイナミックな運営体制を確立する必要があります。
このような状況下では、データやICTを活用して「現在の稼働状況をいかにリアルタイムに把握するか」が病院の経営判断を左右します。電子カルテ上の診療情報だけでなく、スタッフの勤怠や残業時間、シフト管理の進捗などもデータとして分析することで、効率的に配置転換や新たな取り組みを検討できるでしょう。
2.経営基盤の安定化と働き方改革の両立
コロナ禍では多くの病院が収益減に苦しみ、経営面の体力を奪われました。そのため、今後は医師やスタッフの労働環境を改善しつつ、同時にコスト管理や収支バランスを見直して経営の安定化を図る必要があります。
単純に経費削減を目指すだけでは、医師やスタッフに負担がかかりすぎて離職を招き、結果的に医療の質が低下してしまう危険性もあるでしょう。
ポストコロナの病院経営に求められるのは、「働き方改革」と「収益確保」を両立させるための戦略的なマネジメントです。具体的には、ICTを活用した業務プロセスの効率化や、非対面型サービスの拡充による新たな収益源の開拓などが挙げられます。

医師の働き方改革を進める具体策
1.シフト管理と勤怠管理のデジタル化
医師の働き方改革が実現しない要因の一つに、「不透明なシフトや当直管理」が挙げられます。当直やオンコールが特定の医師に集中したり、残業時間の実態が病院管理者に伝わりにくかったりすると、適切な人員補充や改善策が打てません。
こうした課題を解消するため、デジタルによる勤怠管理システムの導入が注目されています。個々の医師がどのくらいの時間働いているか、夜勤や当直の状況はどうなっているかなどを可視化すれば、人員配置を見直す根拠が得られます。さらに、データを蓄積・分析することで、将来的にどの診療科が忙しくなりそうかといった予測も可能になることでしょう。
2.オンライン診療報酬の拡充と運用の安定化
オンライン診療は、医師の働き方改革と患者の利便性向上の両面を支える有力な手段ですが、制度面ではまだ流動的な部分も残ります。
コロナ禍で一時的に緩和された規定や診療報酬上の評価は、2022年および2024年の診療報酬改定において一部見直しが進みつつあり、今後どのように恒久化あるいは拡充されるかは、医療機関にとって重要な関心事です。
仮にオンライン診療が本格的に普及し適切な報酬が得られるようになれば、医師の移動時間や待ち時間の削減につながり、ワークライフバランスの改善に大きく寄与するはずです。一方で、「対面診療との使い分け方」や「システムに不慣れな患者への支援」、導入コストと運用ノウハウの確立などの課題もあります。院内スタッフの連携を密にし、運用を根付かせる努力が不可欠でしょう。

まとめ
コロナ禍からポストコロナへと移行する現在、医師の働き方改革は医療機関にとって避けて通れないテーマとなっています。オンライン診療の普及やタスクシフト、多職種連携など、コロナによって半ば強制的に導入・拡大した施策の中には、今後の病院経営と医師の働き方改善に資するものが少なくありません。
私自身、現場の変化を見聞きするたびに、コロナ禍がもたらした苦労と同時に「これを機により良い医療現場に変革できるかもしれない」という期待を抱かずにはいられません。
とはいえ、感染対策の負担やオンライン診療の報酬制度、さらには財務的な安定性など乗り越えるべき課題も山積しています。これらを一つひとつクリアしながら、医師がより専門性を発揮しやすい職場をつくることが急務でしょう。そうした取り組みが、最終的には患者の安全と医療の質向上にも直結すると考えられます。
医師の働き方改革をよりスムーズに進めたいと考えるなら、まずは勤怠管理のデジタル化から着手するのも一つの方法です。もし勤務表の作成や労務管理の効率化に課題を感じている場合は、Dr.JOYの勤怠管理システムを活用してみてください。デジタルツールを上手く取り入れることで、医師の働き方改革を加速し、病院全体の運営をより円滑にするヒントが得られるかもしれません。
ポストコロナの時代こそ、医療現場は柔軟な対応力を身につけ、医師が安心して働ける環境づくりを進める必要があります。そのためにも、ICTを活用しながら勤務状況を見える化し、業務の無駄を省く取り組みを積極的に行うことが大切です。コロナ禍で得た学びを糧に、今後の医療界が持続可能でより質の高いケアを提供できるよう、各病院がそれぞれの現場に合った働き方改革を深めていければと願っています。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
鈴木
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