はじめに
2024年4月に導入された医師の時間外労働上限規制から、およそ1年が経ちました。この改革は医師の負担軽減と医療の質向上を同時に実現しようとするものの、B水準・連携B水準など特例措置の活用や当直シフト再編など、多くの課題や取り組みが並行して進行しています。本記事では、2025年の医療現場がどのように変わったのか、その具体的なメリットとリスク、さらには勤怠管理システムを活用した成功事例を交えながら、持続可能な働き方の在り方を探っていきます。実際にどのような運用上の課題が浮上し、どのように改善が行われているのか、現場の声にも着目しながら深く考察していきます。
改革がもたらすメリットとリスク
1.医師の疲労軽減と医療安全
時間外労働に上限を設けることで、医師の勤務時間を抑え、しっかり休息を確保する流れが加速しています。従来は「当直明けもそのまま日勤に入る」ケースが日常茶飯事でしたが、改革に合わせてシフトを再編し、当直明けの勤務を免除(明け番)する病院も増えてきました。
こうした取り組みは、医師の集中力や判断力を維持しやすくし、患者にとっても安心感につながるというメリットがあります。
2.医療体制維持とのバランス
一方で、時間外労働の制約によって医師が担っていた業務をどのように埋め合わせるか、という課題が浮上しています。
勤務時間を削減するほど人手不足が顕在化しやすくなり、救急対応や夜間・休日の医療サービスなど、地域にとって不可欠な診療体制を維持するのが難しくなるケースもあるのです。チーム医療の強化やタスクシフトなどで業務を分担する仕組みを整えないと、病院運営に支障をきたしかねません。

B水準・連携B水準とは?── 概要と適用条件
医師の働き方改革では、時間外労働の上限が大きく3つの水準(A水準・B水準・C水準など)に区分されています。なかでも多くの大規模病院が注目するのがB水準および連携B水準です。原則(A水準)では年間960時間が時間外労働の上限となりますが、B水準等を取得すれば最大で年間1,860時間まで引き上げが可能になります。
B水準
地域の医療提供体制を守るため、都道府県知事の指定を受けた医療機関を対象とする暫定措置です。救急やへき地医療など応召義務が特に求められる現場で、上限拡大を認める仕組みといえます。連携B水準
B水準の考え方を応用しつつ、複数の病院や診療科が連携して医師の負担を分散するための仕組みです。自院の時間外を抑えながら派遣先と合算で1,860時間の範囲に収めるなど、地域医療を総合的に維持することを目指しています。
いずれも2024年から2035年度末までの暫定的な特例であり、将来的にはすべての医療機関がA水準内(年960時間)を満たすことが目標とされています。
大規模病院でのB水準・連携B水準の活用事例
1.対象医師の選定と計画的なシフト組み
B水準や連携B水準を活用する場合、すべての医師を一括適用するのではなく、救急対応が頻繁な診療科だけを対象にするケースが多いようです。
たとえば、救急科や外科系など「夜間や休日の呼び出しが多い科」に特化し、その分ほかの診療科ではできるだけ年間960時間(A水準)に近づける努力を続ける、という取り組みが見られます。
2.労使協定の締結・報告義務
B水準や連携B水準を適用するには、労使協定を締結し、都道府県への届出を行う必要があります。書類の不備があると制度を活用できず、法令違反リスクが高まるおそれがあるため、病院の労務担当者は細心の注意を払って申請手続きを行っています。

宿直の許可有無と勤務間インターバル
1.許可あり宿直と許可なし宿直
働き方改革を進めるうえで見落とされがちな論点が、「宿直(当直)」の扱いです。夜間や休日に病院内で待機する宿直勤務は、医師に過剰な負担がかかりがちな業務のひとつ。ここでポイントとなるのが「許可あり宿直」と「許可なし宿直」の区別です。
許可あり宿直:厚生労働省などの許可が下りている場合、深夜帯に軽微な業務だけを想定している宿直は、実労働が発生しなければ労働時間にカウントしない扱いとなることがあります。
許可なし宿直:通常の時間外労働として扱われ、翌日の勤務までのインターバルを厳格に確保しなければなりません。
2.勤務間インターバルの確保
医師の疲労回復を目的に、一定時間以上の休息を連続で確保する勤務間インターバル制度が注目されています。しかし、夜間の救急対応が頻繁な診療科やオンコール対応が不可欠な科では、インターバルを充分に確保するのが難しいケースも少なくありません。こうした場合は他院との連携やタスクシフトによって夜間帯の業務を分散させるなど、複合的な対策が求められます。
大規模病院での実施結果と今後の展望
1.医療事故・ヒヤリハットへの影響は不透明
時間外労働を削減すれば、過労による医療事故リスクの低減が期待されます。しかし、医療事故やヒヤリハットの報告件数は、むしろ報告体制の整備によって年々増加傾向にあります。現段階では「働き方改革によって事故率が大幅に下がった」という明確な統計は出ていないため、制度の効果を示すにはさらに時間を要するでしょう。
2.現場の声:変わらない部分、変わりつつある部分
2024年施行から約1年が経過した時点でも、「勤務時間は以前とあまり変わらない」という医師の声が依然として多いのも事実です。ただ、当直明けの休暇がとりやすくなったり、サービス残業が減りつつあるなど、部分的な改善を実感する医師も出てきました。
一方で、診療縮小や派遣医師の引き揚げといった例も報告されており、医師不足が顕著な地域では改革の副作用が地域医療体制に直結する懸念もあります。国全体としては、医師増員や働き方の効率化を急ぎ、長期的にA水準へ収束させる道筋を示している段階です。
働き方改革を支える勤怠管理システムの活用
医師の働き方改革を円滑に進めるためには、残業時間や当直時間を正確に把握できる仕組みが不可欠です。そこで注目されているのが、クラウド型の勤怠管理システムを活用する方法です。システム上で勤務状況をリアルタイムに集計し、規定に近づいたらアラートを出すなど、労働時間の「見える化」が期待できます。
リアルタイム管理:オンラインで常に最新の勤務時間を集計し、残業が上限に達しそうな医師を事前に把握することができます。
インターバル算出:宿直や深夜勤務が多い科でも、翌勤務までのインターバル時間を自動計算し、配置の再調整をアシストします。
こうしたITツールを導入することで、担当者の手入力ミスやチェック漏れを減らすと同時に、各科やチーム単位での業務負荷を可視化しやすくなるのです。ただし、システムだけであらゆる課題が解決できるわけではなく、実運用の中でタスクシフトやチーム医療と組み合わせて活かす必要があります。

まとめ
医師の働き方改革は道半ばといえるかもしれません。B水準・連携B水準を活用しても2024年から2035年度末までの暫定措置であり、最終的には年間960時間(A水準)の上限に近づけることが求められます。
この10年ほどの間に、医療機関は診療体制の維持と医師の健康確保を両立するための、より本質的な改革を迫られるでしょう。
実際、タスクシフト・タスクシェアの推進による業務効率化や、医師事務作業補助者の配置、さらには複数施設で夜間帯を分担する輪番制など、すでに様々な対策が始まっています。
一部の病院では、これらの取り組みによって医師の負担が減り、離職率低下や夜間救急受け入れの安定化につなげている成功例もあるようです。今後は、こうした事例をさらに広げ、医療の質を保ちながら働きやすい職場環境を整備することがカギとなるでしょう。
もし、自院でも勤務間インターバルを含む勤怠管理をより徹底したいと考えているなら、システム活用を検討してみてはいかがでしょうか。たとえば、Dr.JOYが提供している勤怠管理システムでは、クラウド上で医師の勤務状況をリアルタイムに把握し、インターバル管理や残業アラートをスムーズに運用するための機能が紹介されています。実際の病院運営に合わせて適切なシステムを導入すれば、医師の健康と医療の質を両立する、持続可能な働き方がより実現しやすくなるでしょう。

Dr.JOY株式会社ビーコン事業部 カスタマーサクセス
鈴木
このライターの記事一覧




